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第23話
ルピナスとミハネの二人と別れた数時間後、セイランは薄暗い通路を一人駆けていた。大通りから逸れた、背の高い建物と建物の間。セイランが駆けているのは、ギルドの裏路地だった。
ギルド・ロベリアは崖に接した構造上、ギルドの真裏と崖の間に三メートルほどの隙間があった。ギルドの四階が山との出入り口となっているため、そこが屋根になり、空は見えないトンネル状の空間。
セイランはそこに向かっていた。その表情は焦燥しているようで、全速力とまではいかないが、相当急いでいる様子だった。そうしてセイランはギルドの側面、人気のない路地を抜け、裏手へと飛び込む。
「はっ……っ、は……」
「随分と遅かったな、まさかすっぽかしたのかと思ったわ」
「っ……そんなこと、するわけないだろ……」
セイランが飛び込んだ先にいたのは、先ほどギルドで通りすがりの一瞬で声をかけていた男だった。が、男は見知らぬ一般人が見たら思わず絶句するであろう様相で、山肌に背を預け立っていた。
男は遠目でも分かるほどに下半身を露出し、自慰行為を行っている真っ最中だった。しかし男はセイランが現れたことに焦る様子は微塵もなく、むしろ満足そうなにんまりとした下品な笑みを浮かべた。対してそんな様を見せられたセイランの方も、特に驚く様子は見せず、その上軽く息を整えると自ら男の方に歩み寄っていった。
それからセイランは男の前で膝を付き、眼前にすでに勃起している性器を置くと小さく深呼吸をする。男がそのセイランの口に、亀頭部を押し当て行為を促すと、セイランはそれに従順に従い、先端をゆっくりと口に含ませた。
セイランは軽く頭を前後に動かして、唇と舌で先端からカリ首にかけての短い距離にまず刺激を送る。そして口内に唾液をためると、一度口を離しツンと立てた舌先で浮き出た血管をなぞるように竿を伝っていく。はぁ、と時折熱い吐息を吐き出しながら、竿から睾丸にかけて何度も啄むようなキスをして、また口内に含ませ顔を動かしてを繰り返す。
その行為は明らかに口淫に長けた、経験者のもの。しかし、それを行うセイランの表情は曇ったもので、自ら進んで行っているわけではないことを示していた。それでも必死に男に快楽を与えようと舌を動かすセイランを、男は満足そうに見下ろす。その男の表情は愉悦とも恍惚とも取れるもので、支配欲をじわじわと満たされていくのが目つきに浮かび上がっていた。
男はセイランの額を覆っていたバンダナに手を当てそれを上へ持ち上げ頭から外すと、適当に放り投げる。それによって落ちてきた前髪に指を絡め、片手でぐいと上にかきあげ、男はセイランの必死な表情を眺めた。整った眉を苦しげに潜めて、透き通った瞳は潤い、熟れた唇で陰茎を挟み、その口内を犯されている。見目の良い顔面を直接犯している光景が男の眼前に広がっていた。
「く、はは、いいねぇ……やっぱこっちのセンスしかねぇじゃん」
「……ん、っは、ぁ……」
「ま、でも今日はフェラはそんなもんでいいわ。お前が来るのおせぇから自分で抜いてたし。それよりさっさと挿れさせろよ、ほら、立て」
と、男は急にセイランの後頭部に手を回し、ぐっと髪を鷲掴んで顔を上げさせる。その痛みにセイランが顔をしかめるのも無視して、強引に立ち上がらせた。
「ぃ"っ……、う……ッ!」
「おら壁に手ぇ突いてこっちに尻向けろよ」
セイランが言葉を返すのを待たず、男はそれまで背にしていた山肌から身を離し、そこにセイランの頭をほとんど叩きつけるようにして押し付けた。鈍い痛みがセイランの頭部を襲うが、セイランは男の手に抗おうとする様子は見せなかった。それどころか、むしろセイランは男に言われた通りに山肌に手を突き、男に差し出すようにして尻を向けた。
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