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第24話

 男はそんなセイランの仕草を当たり前のものとして受け入れていた。何も言わずに服を乱暴に脱がせ、セイランの下肢を露出させると、そのまま屹立したものを宛がう。そしてセイランと言葉を交わすこともなく、力任せに腰を進めた。男がしていることは強姦と同じだった。しかし、それでもセイランは暴れないどころか、拒絶の言葉すら放たなかった。 「……っひ、んッ! ぁ、う……っ、」 「あー、……お前がよがってるとこ思い出して抜くのもいいけど、やっぱこっちだわ」 「うぁッ! ぁ、あっ……! そ、んな、はげしくしたら、こえ……ッ!」 「は? そんなん自分で我慢しろよ」  セイランの体は、まるですでに受け入れる準備がなされていたかのように男の性器を難なく迎え入れた。男はそれを知っていたようで、一度奥まで貫くと、そのまま自分の欲を満たすための性急な攻めを与え始める。セイランは額を山肌に押し付けて、突いていた片手で口を覆う。もう片方の手で、後ろからの攻めにより固い山肌に体がぶつかるのを支えるが、それでも乱暴な攻めによって肩や頭など至るところが痛んだ。  セイランが快楽に酔う時間など全くない。男もセイランが痛みに呻いていることに気づいていながら、体勢を変えるようなことはしなかった。セイランが逃げないように片手で腰を掴み、もう片方の手は尻に添えられ、時折力任せにそこを叩いて締めさせる。男はセイランがどうこうなど気にもせず、そんな自分の快楽のことしか考えてはいなかった。 「おい」 「ぁっ、ん、なんだ……っ?」 「お前さ、あの金持ちのガキどっから捕まえてきたんだ?」  男が言っているのがルピナスのことであると、セイランは即座に理解する。と同時に、セイランは頭を必死で回転させる。  なんと言えばいいのだろう。捕まえてきたというより、どちらかといえば捕まった、の方が正しい気がする。かといって、昨日からの経緯を話したくもない。  セイランが答えを迷っていることも知らず、不意に男が笑った。そうして男はぐっと、腰を奥に進めながら体を倒し、またセイランの髪を掴んで頭を上げさせる。無理やり自分に近づけたそのセイランの耳元で男は含み笑いを溢しながら囁く。 「大方お前がここで誘ったんだろ?」 「あ……、」  そんなはずないと、言えなかった。もちろんセイランにそんなつもりはない。確かに昨晩の宿では誘ったと言われても仕方ないかもしれないが、最初はそんな気は全くなかった。  でも、確かに。今、ルピナスを繋ぎ止めているのは。 「はは、やってることほとんど娼婦おんなじじゃねぇか。体目当てならあんだけ金出してんのも理解できるわ、お前これだけはマジでセンスあるよ、なぁッ!」 「――ッッ!! ぁ、あっ、ぅ……、あ"ッ!」  がつがつとした貪るような攻めに、セイランはただ震える声を溢していく。男が投げかけた言葉が、セイランの中でぐるぐると黒い渦を巻いていく。  体目当て。  ――そうか、だからルピナスは。あの森の中で、俺を選んで、術をかけて、付きまとって、利益もないはずなのに解けるまで側にいるなんて言って、俺なんかに優しくしてくれたのか。  ――あいつも、こいつらといっしょだったのか。  セイランの頬が濡れていく。それは与えられる快楽のせいか、頭部を襲う痛みのせいか、それとも別の何かのせいか。気にするものは誰もいない。はずだった。  不意に、セイランの耳が遠くの足音を拾う。それは自分が先ほど駆けてきた、ギルドの横の路地から聞こえてくるもので、真っ直ぐこちらへ向かっている。 「ぁ、あ……っ! まっ……、誰か、来てる……ッ!」 「ん? またどうせお前の声に釣られたヤツだろ。責任持って輪姦されろ」  セイランは咄嗟に頭を上げて振り返ろうとするが、直後に伸びてきた男の手に再び頭を山肌に押さえ付けられそれは叶わない。セイランはそれきり諦めたように目を伏せ、ただ行為がいつか終わることを待つことに専念することにした。律動が止まる気配は当然ありもせず、卑猥な性行為の音が響く。涙が頬を伝って落ちていくのを感じながら、セイランはただ甘く喉を震わせていた。  だが無情にも、セイランはすぐに現実に引き戻されることになる。それは足音が止まった時。ギルドの誰かだろうと思われていたその人物の声が、届いた瞬間だった。

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