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第29話

「あっ、あっ、そこ……、ぁうッ!」 「気持ちいいでしょ? イイところ外からトントン押してもらえて」  トントンというかもはや勢いはガンガンで、セイランの体は快楽に震えるしかなかった。そこでの感じ方なんて知らないはずなのに。体が知っている。押し上げられる感覚が、挿入されていないはずなのに犯されていると錯覚するほどの快感を連れてくる。 「ぁ、あッ! あ、それ……っ!」 「うふふ、ここイイんでしょ?」  ルピナスの指先が、くりくりと亀頭を弄りだす。会陰と亀頭を同時に刺激され、頭の中が快感で満ちていく。 「あ、あっ、これっ、イく、……ひ、っあ、ッ!」 「後ろヒクヒクしてる。かわいいなぁ」  ルピナスはあえて裏筋には触らないようにして、ただ亀頭にだけ刺激を送り続ける。同時に自分の先端で会陰をぎゅっと押し込むと、セイランの体は素直に快楽に跳ねた。浮かせた以上に腰が反り、額には汗を滲ませて、快楽に身を委ねる様はそれは妖艶なものだった。それこそ、悦んでいると言うべき乱れ方。 「イ、く……っ、ぅ、あ、んっ、……ひァッ!」  不意にびく、と体を跳ねさせたセイランはそのまま脱力しベッドに体を沈める。ふわふわとした快楽が体の中で脳まで犯していく。頭が白んで、ぼーっとして、気持ちいいことしか考えられない。セイランは虚ろに目を開いたまま、シーツを抱き寄せて子どものようにそれを開いたまま唾液をこぼす唇に触れさせた。 「あはは、セイランわかる? ここ、ひくひくしてる」 「あ、ぅ……、」  散々突かれた会陰が、脈打つようにひくひくと震えていた。そこをルピナスの手がうりうりと弄って、まだ絶頂感の中にいるセイランは身を震わせた。 「……セイラン? 眠い?」 「ん……」  もはやほとんど言葉を紡げない様子のセイランを見つめながら、ルピナスは額に張り付いた髪を払う。快感からか、目に涙を溜めたセイランは眠そうに瞬きを繰り返していた。  先ほど立ち上がれなかったことといい、どうやら自分は随分と消耗しているらしい。セイランはようやくそれを自覚するが、どうしてこんなに消耗しているのか、思い出せなかった。  あの男に犯されて、頭を叩き付けられて、ルピナスが助けてくれて。そこで記憶は終わっている。自分はまた何か忘れたのだろうか。それとも、そんなに頭の傷は重かったのだろうか。考えるだけ考えて、結局答えは出ずに気付けばセイランはそのまま気を失うように眠っていた。  シーツを抱き締めたまま眠りについたセイランを眺めていたルピナスは、そっと顔を近づける。セイランを起こさないように、限界まで音を殺し、動きを押さえたルピナスは、セイランの開いたままの唇に自分のものを重ねた。その口づけに音はなく、触れたのも、一秒にも満たないほどの時間。それでも身を起こしたルピナスの表情は満たされていた。 「……好きだよ、セイラン」  かろうじて音になったその微かな声は、当然誰にも届かない。ルピナスはそれきり何も言わず、幼い表情で眠るセイランを愛おしげに見つめ、そっと髪を撫でた。  それから数分。セイランの寝顔を堪能したルピナスはゆっくり立ち上がり、ひとまずセイランの大腿にかけてしまった自分の精子を拭う。それから半分以上ベッドから落ちていた掛け布団を取り、セイランにかけた。  さて自分は風呂にでも入ろうかとしていたルピナスの耳に、コンコンという控えめなノックの音が聞こえたのは、その直後のことだった。  時刻は深夜。こんな時間に訪ねてくるなんて、と普通は警戒するはずのもの。だというのに、ルピナスは特に注意することもなく、真っ直ぐに扉に向かい鍵を開けた。 「夜分に申し訳ありません」 「ううん、それより消してくれてたんでしょ?」 「それはもちろん」  開けた扉の先に立っていたのは、昼間に遭遇し、明日からのシャムロックへの旅路に同行することになっている学者・ミハネだった。ミハネはルピナスに向けて深々と頭を下げる。ルピナスはそれを見慣れているようで、一瞥するだけでくるりと踵を返し、ミハネに勝手に部屋に入るように促した。ミハネは頭を上げ部屋に入ると、部屋の鍵をかける。  それからベッドで眠っているセイランをちらと見るが、何も言わずに室内の机に向かって行くルピナスの背を追った。机の側にあった椅子に腰かけるルピナスの隣についたミハネは、もう一脚椅子があるにも関わらず床に膝を突き、頭の位置を下げる。そしてミハネは、ルピナスの前に一枚の文書を差し出した。 「坊ちゃん、これを」  ミハネが差し出した文書に視線を落としたルピナスの表情はみるみるうちに険しくなる。舌打ちまでしたルピナスは、大きく息を吐き出し、一度瞼を閉じる。数秒後に再び開かれたルピナスの瞳は、強い決意の色を宿していた。 「もう時間がない。これが、最後のチャンスだ」  ルピナスは強い瞳をベッドで丸まっているセイランの方に向ける。かけられた布団から覗くセイランの表情は穏やかなもので、何も知らない無垢な赤子のように深く静かな眠りの中に身を委ねていた。 「大丈夫、ボクが絶対に、お前を守るから」  強く言い切ったルピナスは机の上に置かれた文書を片手でぐしゃりと握りつぶす。その直後、ルピナスの手の中で一瞬で紙が灰になる。はらはらと落ちていく黒くなったそれに、ルピナスはもう目を向けることはなかった。

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