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第4話

1ー4 一晩の対価 翌朝、俺が『雉猫亭』に帰ってくると、そこには、見たことのないような豪奢な馬車が停められていた。 俺は、人だかりのできている酒場の入り口になんとか人ごみを掻き分けて入っていった。 店の中には、こんな店には不釣り合いな立派な身なりをした若い金髪の男がいた。 それは、美しい男で、肩までで切り揃えられた金髪は、さらさらで金の糸のようだったし、瞳は、極上の魔石のように深い青だった。 ライナスは、その男に不味いお茶をすすめたり、気味の悪い愛想笑いを浮かべて見せたりしていたが、俺が入ってくるのに気づくと男の肩をつついて俺の方を指差した。 「あれが、セイです。セイ、ここに来てこの方にご挨拶しろ」 なんだ? 俺は、顔をしかめた。 金髪の男は、俺を見ると少し驚いたような表情を浮かべていた。 「本当に、彼がセイなのか?」 「そうでございます。間違いなく、お探しのセイでございます」 へりくだったライナスの態度も俺には、面白くなかった。 普段、俺には、もっと偉そうにしているくせに。 「俺がなんだっていうんだ?」 俺がきくと、金髪の男が微笑んだ。 「いや、話にきいていたのと少し違うような気がしただけだ。気にしないでくれ」 「話?」 「ああ。ロナード様から聞かされた」 「ロナード様?」 俺が心当たりもなくて頭を傾げていたら、金髪の男は、苦い笑いを浮かべて見せた。 「君が昨夜、もてなしてくれた客のことだ」 「ああ」 俺は、頷いた。 「あの客、な」 「ところでロナード様に、君に十分にお礼をするようにと言われているんだが」 はい? 俺は、ライナスを見た。 奴は、何かを期待するように頷きながら俺を見つめていた。 「俺の値段は、一晩銀貨1枚だ。それ以上は、もらうわけにはいかないな」 「ちょっ!」 ライナスが俺の肘をつねった。 「いてっ!」 「すみません、この者は、まだよく事が理解できてないのです。お許しください」 ライナスは、揉み手をしながら金髪にすり寄った。 「どうか、この者が言うことはお気になさらずに」 「そうか」 金髪は、頷くと俺にずしりと重い皮袋を手渡した。 「これを。とりあえず、とっておきなさい」 俺は、袋の中身を見た。 金貨がぎっしりと詰まっている。 「俺、こんなもの、貰うわけには」 「いいから」 金髪の男は、俺にそれを握らせた。 「君は、それだけのことをしてくれたんだよ、セイ」

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