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第6話
1ー6 決別の時
「あいつは、最低のクズだな」
ライナスが吐き捨てるように言った。
俺は、なんだか悲しくなっていた。
「でも、いい奴なんだ」
「あいつがいい奴なら、その辺のゴミ虫でもいい奴だよ」
ライナスが俺の代わりに怒ってくれているように俺には思われていた。
ライナスは、俺にきいた。
「どうせ、全財産をあいつに渡しちまったんだろ?あいつ、ミカエルのお代までお前につけていったんだぜ?」
「そうか」
俺は、不思議と何も感じなかった。
ただ、心のどこかに穴が空いているような気がしていた。
これが、俺がここを離れられない理由だった。
ラミエルは、俺の本当の弟ではなかったが、唯一の家族ともいえる存在だった。
1つ年下のラミエルは、エドやエドのまわりの人々のお気に入りだった。
俺は、というとちょっと複雑だ。
俺には、この世界の誰もが持っている筈の神の加護の証の紋章がなかった。
こういう者は、『無印の者』と呼ばれて、たいていは、国を追われるものらしい。
俺が国を追われずにすんだのは、エドのおかげだった。
エドが俺がこの国に残れるように神殿の上の連中に掛け合ってくれたのだ。
ガキの頃は、エドは、自分と同じように俺を善神ヴィシュヌの神官にするつもりだったらしい。
実際に、俺は、15才の神託の儀までは、エドの助手をしていたしな。
俺には、ガキの頃から浄化とか、癒しの力とかいわれるものが備わっていた。
だから、エドは、『無印の者』である俺を自分と同じ神官にしようと思っていたのだ。
だが、神託の儀の時、俺が『無印の者』であることがあきらかにされてしまった。
というのも、日頃から俺のことをよく思っていなった一部の連中が神託の儀を行う神官に金を握らせて俺のことを告発させたのだ。
そのために俺は、エドと引き離され神殿を追い出された。
そのとき、行く先のない孤児の俺を拾ってくれたのがライナスだった。
以来、俺は、ここで男娼をして生きてきたのだ。
こんな俺にとって、弟のラミエルは、希望だった。
いつか、勇者としてこの国の人々のために役立つ人間になってくれるのではないか。
というか、そうなって欲しい。
そう俺は、願っていた。
だけど。
ラミエルは、いつまでたっても変わることはない。
俺は、絶望していた。
俺は、こんなになっていても弟のラミエルだけは、と思ていたのだが、とてもじゃないけど立派な勇者になんて、いや、それどころか普通の冒険者にすらなれそうにない。
ライナスは、俺があがりが少なくても嫌味を言うだけで出ていけとは言わないが、それでも他の連中の手前、28にもなってとうのたった男娼である俺がここに居続けることは難しい。
俺は、自分の部屋のきしむベッドの上に横たわって天井を見つめていたが、ついに意を決した。
明日、朝がきたらここを出ていこう。
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