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第25話
3ー1 畑を分けてもらいたい。
『まずは、主の持つスキルじゃ』
イェイガーは、俺に語りかけた。
『「無印の者」とは、とても思えぬスキルじゃ。まず、浄化の力。あの、カレイラの結界内で自分を取り戻せたのは、その力ゆえじゃ。そして、癒しの力。それに』
イェイガーは、俺の足元でじゃれている黒猫を指した。
『テイム。すでに主人を持つ魔獣をテイムするとは、なかなかのものじゃ』
「そうなの?」
俺は、デザスタを見つめた。
うん。
マジでかわいい子猫にしか見えないし。
黒い子猫は、ラウスとクレイのことを大喜びさせた。
2人は、どこからか赤いリボンの切れ端を手に入れてくるとそれを子猫の首に巻いてやったり、毛並みをブラッシングしてやったりと大騒ぎだった。
俺もこいつに襲われかけたにも関わらず、こいつのこと可愛がってるしな。
王が来ない後宮では、こいつは、憩いの天使だった。
王は、というと。
外交問題だかなんだかで、あの夜以降、後宮から遠ざかっていた。
なんでも、魔界と呼ばれる場所の近くにある魔王を崇拝している国 トリアニティ王国の間者がこのアリスティア王国と隣国のイスカルディ王国との国境あたりで捕らえられたのだそうだ。
ちなみに、イスカルディ王国は、王の実兄が最近嫁いだばかりの同盟国なのだという。
王の実兄は、オメガでそれはそれは美しく儚げな男だったらしい。
俺とは、大違いだな。
「本当に、恐ろしいことでございます」
ラウスが真面目な顔をして俺に話した。
「魔王を崇拝する国があるなんて信じられません」
「別に、変じゃないだろ?」
俺は、応じた。
「この国だって、そいつらからすれば恐ろしい善神ヴィシュヌを崇拝している国なのかもしれないぞ」
「そうでしょうか」
納得しかねるという様子のラウスを俺は、制した。
今日は、こんな言い合いをしている場合じゃない。
今日は、ここに来てから初めて、後宮を案内してもらうことになっていた。
建物の中も外も、な。
後宮は、閉じられた小さな世界だ。
ここの中で全てをまかなえるようになっている。
衣装を繕う衣装部屋のお張り子たちもいれば、食事を作る厨房もあるし、庭を手入れする庭師たちもいた。その他の細々したことをする小間使いたちもいた。
俺は、裏庭にある畑に興味があった。
「なあ、ラウス。ここの畑を少し、分けてもらえないかな?」
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