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第44話
4ー7 赤い瞳
その地下牢の中には、王ともう1人の見知らぬ男がいた。
いや。
人ではなかった。
その男は、額に2本の角が生えていた。
魔人だ。
俺は、恐怖のあまり体が震えていた。
東の果てには魔王を崇拝する国々がある。
そこには、魔人たちが住んでいるのだという。
子供の頃から、エドに聞かされた話だ。
「いい子にしないと魔人に拐われてしまうぞ」
エドは、俺たちがわがままを言って困らせるとよくそう言ったものだった。
「魔王の国へ連れていかれると、悪い子は、みんな魔人に食べられちゃうんだぞ」
俺は、初めて見る魔人から目を反らすことができなかった。
魔人は、青みがかった美しい銀髪をしていて、目は灰色だった。肌は浅黒く、薄汚れた見慣れない服を身に付けていた。
王は、俺を感情のこもらない瞳で見つめていた。
「これが、お前たちの探している者か?」
「わからない」
魔人は、王に答えた。
「だが、おそらくそうだろう」
なんの話だ?
俺は、2人を見つめて牢の入り口に立ち尽くしていた。
「セイ、こっちに来い!」
王に命じられて、俺は、ふらふらと牢の中へと入っていった。
そこは、牢とはいえ、小綺麗なシーツのかかったベッドがあり、テーブルと椅子も置かれていて、普通の部屋のように思われた。
王は、俺が近づくと不意に手を掴んで俺を抱き寄せた。
「これは、私の側室のセイ・イガーだ」
王は、魔人から目を反らそうとした俺の顎を掴んで無理矢理魔人の方を向かせる。
「お前たちの探している者かどうか、確かめるがいい」
魔人が俺の方へと手を伸ばしてくる。
俺は、恐怖に喘いだ。
魔人は、恐怖に目を見開いている俺に触れることなく手を引っ込める。
「どうか、私を恐れないで。私を見てください」
魔人の声に、俺は、彼の方を見つめた。
魔人の灰色の瞳が揺らぎ、赤く光った。
「あっ・・」
俺は、魔人の赤い瞳に捕らわれていた。
目が。
熱い。
俺は、目を見開いたまま涙を流していた。
目が、変、だ。
「間違いありません。このお方は、我々の探しているお方です」
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