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第83話
7ー9 新しい魔王
影は、イェイガーを回収すると俺を抱き上げて森を出ていこうとした。
だが、森は、俺たちが出ることを拒むように道を開くことはなかった。
「どういうことだ?」
影は、木の枝やら蔓やらを切り落としながら、前へ進もうとするが森からは出られなかった。
結局、もとの魔王の小屋へと戻ってきてしまった俺たちの前にあの精霊の少年ルナが現れた。
「あなたは、今は、ここから出ることはできない」
ルナは、俺に歩み寄ると俺の腹に手を当てた。
「ここに次の魔王様がおられるから」
はい?
俺は、ルナの手を振り払った。
「そんなわけがないだろ?俺たちは、異世界から来たんだぞ!」
「しかし」
ルナは、淡々と続けた。
「森は、次の魔王を選んだ」
「俺は」
俺は、ルナに背を向けると森の外を目指して歩き出した。が、木々が邪魔をして道は閉ざされている。
「俺は、帰りたいんだ!」
俺は、手が傷だらけになるのもかまわずに先を塞ぐ蔓や茨をむしりながら前に進んでいこうとした。
あの人のもとへ。
帰りたい。
俺は、ただ、それだけを願っていた。
「魔王が産まれればあなたは、自由だ。どこへでも行けます」
ルナが俺に投げた言葉に、俺は、腹が立った。
「この子を置いていけと言うのか?」
俺は、木々の壁の前に立ち、ルナを振り返った。
「ここに?1人で?」
「1人ではありません」
ルナが俺に答えた。
「私がいます。この森の精霊たちが魔王をお育てします」
「そんな・・」
俺は、この子を1人置いていくことなんてできない。
どうすればいいっていうんだ?
俺は、そんなことを認めることなんてできなかった。
俺は、何度も何度も森へ挑んだが、結局森を出ることはできずに魔王の小屋へと帰ってきた。
俺は、その夜を魔王の小屋で過ごした。
暖炉の前で座り込んでいる俺に影がそっと毛布をかけてくれた。
「・・影・・」
「なんです?」
「俺は、どうしたらいいんだ?」
「私に何かできることがあるとすれば」
影は、俺に信じられない言葉を発した。
「そのあなたの子を殺して、あなたを森から解放することだけです」
「そんな!」
身構える俺に、影は、笑った。
「そんなこと、しやしませんよ、セイ様」
「本当に?」
俺は、恐る恐る影にきいた。影は、頷く。
「本当ですよ、セイ様。あなたをお守りすることが私の役目です。あなたも、その子供もお守りしますよ」
「そんなこと言ってたら、あんたも帰れなくなっちまうぞ」
俺は、力なく笑った。
影は、俺の肩に両手で触れた。
「言ったでしょう?あなたを守ることが私の役目だと」
俺は、肩に置かれた影の手に自分の手を重ねた。
「もっと、頭いいのかと思ってたんだけど、バカだったんだな、お前」
「自分でもそう思いますよ、セイ様」
「バカだ」
「はい」
「本当にバカだ」
俺は、いつしか泣いていた。
影は、いつまでも俺の肩に手を置いて俺の側に寄り添ってくれていた。
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