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第16話
「奏斗はさー、相撲、好き?」
慶太さんにハンカチを返すや否や、慶太さんに質問された。
「相撲...ですか」
僕はうーん、と唸る。
「よくわからないです。あ、でも、嫌いじゃないかな、テレビでやってたら、つい見ちゃうし」
「本当!?」
慶太さんが前のめりになり、満面な笑みを見せた。
「僕さ、高校選び、失敗したなあって思ってるんだよね」
「高校選び、ですか?」
うん、と慶太さんが頷く。
「相撲部のある高校にすれば良かったなあって」
「相撲部....」
僕は唖然とし、慶太さんを見た。
僕も細い方だけど、慶太さんも華奢だ、それに、とても綺麗で可愛い顔立ち。
(....こんな人がお相撲さんになりたいだなんて)
人は見かけによらないな、と感じた。
「あ、でも、アレですよね」
「ん?」
「めちゃくちゃ食べないといけないですね、ちゃんことか」
「だね、ちゃんこかあ....」
慶太の脳内は、畳の一室。
浴衣姿のお相撲さんの正面に座り、鍋から取り分けたちゃんこの器を手にしている自分。
フーフーと息を吹きかけて冷まし、あーん、と食べさせてあげ....、美味しい?ごっつぁんです!
と満面の笑顔を浮かべ....。
「慶太さん、慶太さん」
「え?」
「涎、垂れてます」
僕の平静な声に我に返り、慶太さんは慌てて口元をハンカチで拭った。
そんなにお相撲さんになりたい夢があったなんて...
僕は相撲部があれば、タイプな男子生徒がいるかも、なよこしまな下心の慶太さんの考えは知らず、ある意味、慶太さんを尊敬した。
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