40 / 44
第40話
僕はホットココアにマシュマロを浮かべ、お兄ちゃんの部屋に入った。
僕があらかじめセットしていた、犬や猫などの番組を録画していたDVDを膝を抱え、お兄ちゃんは見つめている。
「はい。お兄ちゃん」
「ありがと、奏斗」
いつもとは違う笑顔に胸が痛んだ。
「わっ、可愛いね、腹ばいになって寝てる。ね、お兄ちゃん」
「うん」
子犬がソファの上でまるで人間のように上向きで眠る映像を指差したが、お兄ちゃんからは覇気のない返事だ。
...どうやったら、お兄ちゃんを元気づけられるだろう。
僕はココアを口元に寄せ、ついでに眉間にも皺を寄せた。
「...良かった。奏斗がΩで」
不意について出た、お兄ちゃんの言葉に驚いた。
お兄ちゃんは変わらず、ぼんやり、ココアのカップを口元に寄せ、テレビ画面を見つめたままだ。
Ω同士で嫌だ、と思っていた僕。
自分がもしαだったら、何かしら可能性があるんじゃないか、なんて...兄弟だし、そんなわけないのに。
せめてもの自己欺瞞でしかないけれど...。
こうしてる間にも、恭一さん、大貴さん、慶太さんから、それぞれ、ひっきりなしにLINEが入った。
みんな、お兄ちゃんを心配してる。
『学校終わったら、三人で行くから』
そのLINE通り、制服姿の恭一さん、大貴さん、慶太さんが兄を訪ねてきた。
たくさんのビニール袋を持って。
テーブルに所狭しとジュースやお菓子が並べられる。
「これ、優斗のだろ?」
不意に大貴さんがなにやら真新しい本を兄に差し出した。
「噴水に浮かんでた、て、落し物箱の中にあったからさ」
表紙を見ると、色んな柄の猫たちの写真を添えた、コミカルなエッセイみたいだ。
これを読みながら、お兄ちゃん、歩いてたんだ、と僕は改めて、兄の可愛さに思わず微笑んだ。
「水でぐちゃぐちゃだったからさ、同じの見つけて、三人で金出し合って、買ってきた」
恭一さんの説明に暫し、呆然とし、
「ありがとう...」
潤んだ瞳でお兄ちゃんは両手で受け取った。
ともだちにシェアしよう!