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第13話 これからも
「謝りたいこと……?」
「陽平があの日店に来た時、俺は年甲斐もなく一目惚れってのをしちまった。お前さんは勘違いで店に来たってのに、話だけでもしたいっていう俺のわがままで『代金の返金はできない』なんて嘘をついた。本当ならノンケが間違えて店に来たら、代金返して帰ってもらうことになってんだよ」
驚きで言葉が出ないでいると、ミルさんは静かに言葉を続けた。
「その上、店に禁止されてるプライベートの連絡先を渡すなんていう真似までして。あの日のうちにお前さんから連絡が来なかったら、アドレス変えて潔く諦めようって思ってた。けど、お前さんは連絡をくれた」
あの日すぐに連絡をした自分に、感謝してもしきれない。
「一目惚れした相手が自分とセックスしたいと言ってくれている。こんな嬉しいことは無い。だが、陽平は俺なんかにゃ勿体ない男だ。今日を最初で最後の日にしようって思ってた。それなのにお前さんは、真っ直ぐ俺に気持ちをぶつけてきてくれて……。俺はその気持ちに全力で応えたい。ごめんな。陽平の未来の幸せを、俺が潰しちまった」
ミルさんは眉を下げて謝るが、そんなことあるはずがない。
「謝らないで。幸せは潰れてなんかないよ。俺、ミルさんと付き合えてすっごく幸せなんだ!」
改めて『お付き合い』できた喜びを噛み締めつつ、ミルさんにキスをする。
「ありがとう陽平。お前さんのことが好きだ」
「ミルさん……♡大好きっす♡♡」
俺は今世界一幸せな人間かもしれない。
幸せに浸りながら、ふと俺はあることが気になった。
「そういえば、ミルさんの本名聞きたいっす」
「まあ、付き合うんだから教えないとおかしいか。磯見 優(いそみ まさる)だ。『ミル』って源氏名は、苗字と名前の最後の文字を取って適当に付けたもんだ」
「優さん……ぴったりの名前っすね」
「そうか?悪い気はしねぇな」
優さんの優しさに惚れた俺としては、こんなにもぴったりな名前があるのだろうかと思えてしまう。
そしてもう一つ重要なことがある。
「優さん、その……お店はまだ続けるの?」
「嫌か?」
「正直嫌っす。俺みたいなやつが出てこないとも限らないし」
「はは。俺みたいなおっさんに本気で惚れる物好きなんか、陽平くらいなもんだろ」
優さん、自分がどれだけ魅力的な人間なのか分かってない!この警戒心の無さをどうにかするのが今後の課題だ。
「まあ、店は辞めるきっかけがなかったから続けてたようなもんだし、これを機に別の仕事でも探すかな」
「これから先、優さんのえっちな姿は俺だけのものっすからね!」
この先ドスケベでかわいい優さんを見ていいのは俺だけだ。独占したい気持ちを込めて、更に力を込めて抱きしめる。
優さんの腕も俺の背中に回ってきて、その逞しさに胸が高鳴った。
「これからよろしくお願いします、優さん♡」
「ああ。よろしくな、陽平」
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