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第21話 お祝いはホテルのクラブフロアで(上)

俺と篠田はまぁちょいちょい言い争いはしてる。後から何で争ってたのかわかんないようなくだらないことでね。 でも、あんまり大きな喧嘩ってしたことなかった。 そう、この時までは。 「だーかーら!俺は温泉に行きたいの!」 「あのさあ、そもそも何で旅行いくのか覚えてます?俺の誕生日祝いでしょ!」 「んなのわかってるけどさぁ、でも俺の誕生日旅行なんてしてねーじゃん!?」 「それは、まだ付き合ってなかったからでしょーが!」 「でも不公平でしょ?!だから間をとって、2人の行きたいとこにしようって言ったじゃん」 「そうですよ。でも俺熱海って気分じゃないんですってぇ」 「なーんで!温泉気持ちーじゃん!」 こんな様子でお互い譲らず、旅行に行くはずなのになかなか行き先すら決まらないのであった。 そしてめちゃくちゃ大喧嘩した末、京都にでも行こうか、観光はもちろん嵐山なら温泉もあるねと落ち着いた。  のに、篠田が本社の方の仕事で長期の休みが取れなくなってしまった。 「はぁあ~あ」 「あれ?池沢くんどうしたの、ため息吐いちゃって」 「あー、いえ、ちょっと旅行行こうと思ってたんすけど、一緒に行く友達がダメになって」 「えーそれは残念だね。どこ行くんだったの?」 「京都です」 「あらー、せっかくだったら行けたらよかったのにねぇ。お友達お仕事忙しいんだ?」 「はい。急に連休とれなくなったって」 「そっかあ、でもまぁ、またいいことあるよ!」 そう言って女性の先輩社員は俺の肩を叩いて励ましてくれた。 ちなみに今の先輩も、後輩の篠田が店舗に回ってくるとキャーキャー言って集まる女性の1人だ。 こんなふうに女が放っておかない男を独占してるだけで、旅行くらいダメになっても文句は言えないかぁ。 と言い聞かせたところで、落ち込んだ気持ちが晴れるわけではないのであった。 そして元は京都に旅立っていたはずの日。 本当ならこの金曜を休みにして、2泊3日で旅行する予定だった。 しかし篠田が土曜出勤になってしまったのだ。 それでなくても金曜日はもう疲れが溜まってるというのに、土曜も彼氏は仕事となればテンションが上がるはずもなかった。 「はぁ…」 俺はこっそりまた溜息をついた。 その時。 篠田からのLINEの通知が。 ちょうど休憩でスマホを手にしていたのですぐに開ける。 「明日土曜の夜空いてますか」 空いてるに決まってるじゃん! 俺はちょっとだけ気分が回復してきた。 「空いてるよ」っと。 「じゃあ土曜夜から日曜まで開けといてください」 だって? ん~?まあ、いつも通りってことかな? きっとうちにでも来るんだろうと思い、OKした。 金曜のうちに土日に食べる食材もある程度買っておく。 一部だけ下味をつけて冷凍する。 そして土曜日、篠田が仕事を終えたのは15時頃と早い時間で、そこから俺の家に着いたのが16時過ぎだった。 「お疲れ~」 「先輩、行きますよ」 「は?」 「1泊する分だけ荷物持ってください」 「はあ?どこ行くの?その辺のホテル行くならうちでいいじゃん」 今日はここ行きます、と篠田がスマホの画面を見せてきた。 ○○○ホテルのクラブフロア…? 「え、何この高そうなとこ」 「だからいいんじゃないですか。時間ないから遠出できないんで、近場で贅沢しましょうよ」 「え、こんなの行くの?普通の服でいいの?」 「せっかくだからホテルのレストランで食時しましょう。襟付きのシャツ着てください」 「え~…なんか、こういうの俺たち初めてだね?」 「うん、たまには良いかなって」 さすがイケメン様ぁ! 俺はいそいそと着替えをし、一泊分の荷物をさっとまとめた。

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