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第36話 喧嘩して怒った俺は篠田弟の家に行く(1)
「あー、また皿洗わないで寝ちゃった…最悪…」
朝ベッドで目を覚まして俺は絶望した。
「んー?いいじゃん、今日洗えば」
「だから、俺はそういうの嫌なの。その日の汚れはその日のうちに洗い流したいの!だーから食洗機買おうって言ってるのに」
「ええー。でもいらなくない?俺も洗うの手伝うし」
起き上がりかけた俺を篠田が引き止めて腕枕してくる。
「手伝ってくれるのはいいけど、片付ける前にすぐエッチしようとすんのやめて」
微笑みかけてくる篠田を俺は睨んだ。
「は?昨日は先輩が誘ってきたんじゃないですか」
「はー?誘ってねーし」
「誘いましたー。エロい顔してキスして来たのはそっちですー」
親指で唇をなぞられる。
「しーてーなーい!普通の顔でしたー!」
「いーや、エロかったね!すぐにぶち込みたくなるくらいエロかったですー!」
ガバッと篠田が俺に覆い被さってきた。
俺は腕を突っ張って抵抗する。
「ちょ、お前下品な言い方すんなばーか!」
「エロい先輩が悪い」
「もういいよ、食洗機買お!それで解決。な?」
「えー、食洗機買うくらいならでかいテレビ買いましょうよ~」
篠田が抱きついてきて、ぎゅーぎゅー締め付けられる。
「テレビ買っても俺のイライラは治んないだろ?」
「えー?先輩のイライラは俺が宥めてあげますから♡」
チュッと派手な音をたてて頬にキスされた。
「うるさい!そうやって俺を上手く操ろうとしてるのはわかってんだぞ。もう騙されないからな」
「え?何言ってんの先輩…」
篠田はキョトンとした顔をしている。
「もう怒った!食洗機買うまでご飯作んないから!今夜は一人で飯食うんだな。じゃ!」
それからその日は口も聞かずに出勤した。
むしゃくしゃした俺は、昼休みにあいつに連絡した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それで、コレは何なんです?」
俺の目の前にイラついた様子のイケメンが現れた。
「よし、よく来たな剣志。飲み行くぞ」
腕を引っ張って歩かせる。
「ちょっと!なんなんですか一体。急に金曜の夜に呼び出して」
「お前の兄貴のせいだからな、仕方ないんだ」
居酒屋に入り、とりあえずビールで乾杯する。
「いきなり ”今夜俺と飲みに行かないとゲイバー行ってナンパする” とか…どうかしてますよ」
「んなの冗談に決まってるだろ」
俺はゴクゴクとビールを飲んだ。
「あんたならやりかねないから怖いんですよ!」
「ふん。あ!お姉さんビールおかわり!」
「大体ね、こうやって二人で会うのも兄貴に知れたら怒られますよ?知りませんからね俺は。もう巻き込まないでくださいよ」
俺はつまみの軟骨をぼりぼり咀嚼する。
「冷たいこと言うなって。その兄貴に俺は頭に来てるんだからな。今日は飲んで忘れるぞ」
ほどほどにしてくださいよと言われたが、次に気付いたら俺は篠田弟におんぶされていた。
「あれ?篠田ぁ?」
「篠田の弟の方だよ」
「えー?じゃあ篠田じゃん。あれ?弟?ん?」
「だから、剣志だって」
「篠田ぁ~あったか~い」
「暑苦しいから抱きつくのやめて下さい」
そして、俺が絶対帰らないと譲らなかったので剣志のマンションに泊めてもらうことになった。
兄より綺麗好きのようで、部屋は小ざっぱりと片付いていた。
「眠い…」
俺はそのままフラフラとベッドにダイブした。
「おいおい、せめてコレに着替えてから寝ないと…スーツのまま寝ないでよ」
「やって~」
バンザイする。
「ふざけんな、何でおっさんの着替えしなきゃならん」
「は?今おっさんって言った?」
俺は起き上がって睨みつけた。
「いや、だって30でしょ…おっさんじゃ…」
「お前、そのおっさんに舐められてちんこギンギンに勃起させてませんでした?」
「はい……させてました…」
「ふん!生意気言うとまた咥えるからな」
「ちっ…ビッチが…」
まだ何かぶつぶつ言ってる。
「なに!?」
「何でもありません!着替え手伝わせて頂きます!」
そして俺は剣志の部屋着を借りてベッドに転がった。
ピンポーン
夜中にもかかわらず、インターホンの音がした。
「ん?こんな時間に誰だ?」
「ああ、やっと来た」
「え?誰か来んの?」
剣志がドアを開けに行き、連れ立って部屋に入ってきたのは篠田だった。
「一樹さん、帰りますよ」
「篠田?!なんで来たの??」
「剣志から連絡貰ったんだよ。ホラ、着替えは…まあいいやタクシーで帰るから。このまま服借りるぞ剣志」
「いいよ、またそっち泊まる時用に置いておいて」
え、あんなことあってまた泊まりに来る気なのかよ。
意外と神経図太いな。
「わかった。ほら、立てる?」
篠田に腕を掴まれる。
俺はそれを振り払った。
「やだよ!帰んないからな」
「はぁ?何言ってるんだよ。駄々こねてないで帰ろう」
「じゃあ食洗機買う気になった?」
「は?それは…また改めて話し合おう。今はとにかく帰って…」
「いやだ。お前だけ帰れ!」
俺は布団を被って身を隠した。
「はぁ~~~…ったく…おい剣志、一晩泊めてもらってもいいか?」
「ああ…別に良いけど…」
「手は出すなよ」
篠田が釘を刺し、剣志は呆れて返事をした。
「出さないって…」
「じゃあ頼んだ。夜中すぐ腹出して寝てるから布団かけてやって」
「子どもかよ?!」
「一樹さん?明日帰ってくるんだよ」
「………」
「じゃあね」
足音が遠のいて、ドアの閉まる音がした。
「ねえ、まさか食洗機買う買わないで喧嘩して家出したの?」
「………そうだよ」
「はぁあああああ。マジでこんなことで巻き込まないでよぉ」
俺は布団から顔を出して謝った。
「………ごめん」
ベッドの端に剣志が座る。
「仲良くしなよ、兄貴他の女ならこんなとこまでわざわざ迎えに来ないぞ」
「うん」
「つーか食洗機なんて勝手に買えば良いじゃん」
「そういう問題じゃないんだよ」
「ふーん?」
「夫婦にはな、いろいろあんだよ!」
「へーい。さて、風呂入ろ」
そう言って剣志はバスルームへ向かった。
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