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【番外編】1.幼馴染との再会
俺は池沢一樹 。親が経営してるカフェでマスターをやってる24歳。
田舎のカフェだが、時間帯によっては年配の常連客でそこそこ賑わう。
今は夏休みで、たまに暇そうな学生なんかもやって来て長時間本を読んだりスマホを見たりしている。
ゆったりした時間の流れるカフェで、今日俺は少しだけそわそわしていた。
なぜなら、年下の幼馴染が東京から久しぶりに遊びに来るからだ。
カランカラン…
ドアベルを鳴らして客が入ってきた。
「いらっしゃいませ」
カップを拭きながら声を掛けた俺は入ってきた人物を見て手を止めた。
「佑成 、剣志 !」
件の幼馴染兄弟がやって来たのだ。
俺は自然と笑顔になって2人を迎えた。
「久しぶりだなあ!おい、お前たちまたデカくなってないか?」
「いっちゃんは相変わらず可愛いね」
「一樹が縮んだんじゃねーの?」
兄の佑成は大学4年の22歳。今年卒業して東京でそのまま就職することが決まってる。弟の剣志は大学2年で20歳。
二人ともモデルのような長身の美形で、子供の頃からイケメン兄弟として近所でも有名だった。今も同じ大学に通ってるので、二人ともさぞモテることだろう。
よく似た2人だけど、少し色素が薄くて髪の毛がブラウンなのが兄の佑成で昔から面倒見が良く、年上の俺を甘やかすのが趣味。黒髪の方が剣志で、何かと突っかかってくるし冷たそうだけど本当は優しい。
物心つく頃には一緒にいて、3人でよく遊んだ。
「家に母さんいるから、荷物置いてこいよ。戻ってきたらコーヒー淹れるね」
篠田家は昔この街に住んでいたが、今は一家で東京に引っ越しているためこちらに実家はない。
なので、兄弟がこちらに来る際はいつも俺の実家に泊まっていく。
実家は古い日本家屋で、広さだけは十分にあるから男2人くらい増えてもなんともなかった。
この店から実家までは徒歩5分かかるかかからないかという程度の距離だ。
「うんわかった。おばさんに挨拶してくるよ」
2人はこちらに2週間ほど滞在するための荷物を実家に置きに行った。
「あの子達が来るとお店がパッと華やぐわねぇ」
常連の吉澤さんがコーヒーを飲みながらにこにこして遠ざかる2人を見ていた。
「でもちょっとここの雰囲気にしては派手すぎますよ」
「あら、気を悪くしないでね?一樹ちゃんもこのお店の花よ」
「あはは!やめてよ吉澤さんそんなんじゃないって」
あんなイケメンたちと張り合う気は毛頭ない。
まぁ、俺だって学生の頃はそれなりにモテたんだけどね。
負け惜しみじゃないぞ。
ただ…今はもう女の子からモテても嬉しくないって気づいただけだ。
2人の出ていった扉をじっと見つめてため息をつく。
コーヒーの準備をしよう。あいつらはすぐ戻ってくるはずだから。
俺は豆を挽いて心を無にしようと努めた。
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