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【番外編】2.過去の秘密(1)

俺には思い出したくない過去がある。 …いや、嘘だ。正確にはその日のことを思い出して…何度も… コーヒー豆の重さを測り、電動ミルで挽く。 豆が粉砕される音が店内に響く。 俺たち3人は子供の頃は家が隣同士だった。年も近く、親同士も仲が良かったため常に一緒に過ごしていた。その関係は篠田兄弟が高校生のときに引っ越していくまでずっと続いていた。 しかし彼らが引っ越す直前くらいに、俺と篠田兄弟はある出来事があって少し関係が変化した。 いや、変化したと思っているのは俺だけで彼らはきっと昔のまま俺のことを近所のお兄さんと思って慕ってくれている。 ただ俺だけが…今は大学生になった年下の男二人に(よこしま)な感情を抱いている。 今日のように暑かったあの夏の日に、俺は篠田兄弟と一線を越えた。 それまで彼らに対して幼馴染以上の感情は無かった。第一、その時まで俺には彼女がいたのだ。 俺たちは高校までは同じ学校に通っていた。 学年は違っても、常に一緒につるんでいて小・中・高とずっと変わらぬ付き合いをしていた。 しかし、俺が大学に進学し、電車で30分以上かかる土地へ通学するようになって高校生の篠田兄弟との付き合いが希薄になっていった。 更に、俺は大学で女の子から告白されて初めて彼女というものができた。 大学に上がるまで、ずっと美形の篠田兄弟といたからみんな俺なんかに目もくれず女の子は二人に夢中だった。 だから自分が女の子と付き合えるなんて思ってなかったのだけど、大学に行ったらこれが意外に結構モテたのだ。 何人かの女の子に言い寄られ、結局は最初に告白してきた子となんとなく付き合うことにした。 俺はそれまで全く恋愛経験が無くてデートも、はじめてのキスも彼女任せだった。 そしてとうとう20歳のある日、その女の子と初体験をすることになった。俺は勿論童貞だったし、実は彼女も処女で、キス以上のことはお互い初めてだった。 彼女の家に誰もいない日を選んで呼ばれて、そういう雰囲気になったからやろうとしたけど…結果的に上手くいかなかった。 途中まではなんとなくこんなものかなと進んだけど、いざ挿入しようとなると痛がる彼女を見て俺のアソコは萎えてしまって復活しなかった。 彼女は「最初だしこんなものだよ。また今度だね」と言ったが、俺は情けなくてなんだかもう嫌になってしまった。 その帰り、大学で仲良くなった友人を呼びつけて覚えたての酒を無理矢理浴びるように飲んだ。 電車を降りて家までよろよろと自転車に寄りかかりながら歩いた。 家に着くと、隣の家のリビングに煌々と明かりが点いているのが見えた。開け放ったカーテンから佑成の姿が目に入ったら急に腹が立ってきて気づくとインターホンを押していた。 俺は何もかも上手くいかないのに、端正な面立ちの佑成はリビングのソファに掛け悠々と本を読んでいる。 ――こいつらが俺のそばにいなかったら、俺だってもっと早くにすんなり童貞喪失してたはずなんだ。なのに並外れたイケメンがそばにいたせいでこの歳まで女の子が俺に寄り付かなかったんだぞ。 玄関のドアが開き、顔を覗かせた佑成が驚いて目を丸くした。 「え…いっちゃん?どうしたのこんな時間に」 「入るぞ」 靴を脱ごうとして、よろめいた。 肘を掴まれ支えられる。 「おっと危ない、うわ!お酒臭い。なに、酔ってるの?」 「うっせー」 「いっちゃんフラフラじゃないか。そんなに飲んで一人で帰るなんて危ないだろ!」 佑成の手を押しのけ床に座って靴を脱ごうとするがなかなかうまくいかない。 「いいだろ、ちゃんと自転車は押してきたって」 「そういう問題じゃないよ。迎えに行くから俺か剣志を呼べよ」 俺たちが玄関で揉めていると2階から剣志が降りてきた。 「騒がしいな。一体何だ?ああ…一樹か」 「おう。邪魔するぞ」 「なんだ酔ってるのか。バカな奴だな。みっともない」 憎まれ口ばっか叩きやがって。 昔はいっちゃんいっちゃんってどこでもくっついて来たくせに! 俺はお前がおねしょしてた頃から知ってるんだからな。

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