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第76話 篠田のお母さんがご立腹(1)
「先輩、ちょっと相談があるんだけど」
「え?なに?」
「俺の親に会ってくれないかな」
え…まさか、それって顔合わせ的なこと?!
「っていうかもう、今週末母親がここに来るんだ。これは決定事項で俺には断れない。篠田家は母が何でも一番の決定権を握ってて…」
「へぇ、そうなんだ。全然いいよ。俺も篠田のお母さんどんな感じなのか会ってみたいし!」
俺はこの時までは呑気に構えてた。
剣志とも仲良いし、この前会わせてもらったお姉さんも良い人だったし。
きっとお母さんも美人で気さくな良い人だからきっと仲良くできるよね。
…なんて思っていた。
* * * * *
「ふぅん、あなたが私の可愛い佑成をたぶらかしてる泥棒猫ってわけね」
泥棒猫!?
リアルでそんなこと言う人初めて会ったよ。
つーかこれ、もしかしなくても俺嫌われてない?
「母さん、そういう変な日本語覚えるのやめてよ。しかも俺の恋人に酷いこと言わないで」
篠田のお母さんはフランス人とのハーフで、子供の頃はフランスに住んでいたため日本語がたまに独特なのだそうだ。
「母さんなんてやめてちょうだい。ママ、でしょう」
そこ!?
「そんなのどうでもいいだろ」
「はぁ、やれやれ。この日本人の男の子にすっかり骨抜きにされて私のことを母さんだなんて…」
「いやそれとこれとは関係ないだろ…」
やっぱり男の恋人いるなんてカミングアウトしない方が良かったんじゃ…
普通自分の子供が同性の恋人いきなり紹介してきたら引くよなぁ。
でもここは奥様人気に定評のある俺の頑張りどころだよな。
「あの、佑成くんの恋人が同性でびっくりされましたよね。驚かせてしまって申し訳ありません。でも、俺たちは真剣にお付き合いしてるんです」
俺がお母さんの目を見て話しても、彼女は何だか嫌なものが目に映ってる…くらいの態度を崩さなかった。
「びっくりしたですって?そんな生易しいものじゃないわよ。またかって、目眩がした程だわ」
え、また?
篠田って男と付き合ったことあんの??
「母さん…やめろよ」
「これが黙っていられますか!ねえ、佑成。お願いだから考え直してちょうだい。男と付き合って一緒に住むなんて…男と付き合う男にろくなのはいないのよ!」
え…その佑成さんが今まさに男と付き合ってるんですが…
「母さんが何と言っても、俺は一樹さんと別れるつもりはないから。俺はもう大人なんだし、母さんに許可もらう必要なんてないし」
「佑成!」
「お、おい。そこまで言うこと…」
俺が宥めようとしたけど篠田の意思は堅いようだ。
「ここは俺と一樹さんの家だから、文句言うなら出て行ってよ」
「な…なんなの?ママに向かってその口の聞き方は!やっぱり男の恋人なんて出来たからこんなことになるのよ!」
お母さんは俺の方に向かって更に怒りをぶつけようとした。
「あなたね、うちの子はこんなふうに私に口答えするような子じゃ…」
「佑成、謝れよ」
「え?」
「お母さんに謝れって言ったんだよ。なんだその態度は!」
「ええっ」
「は?」
俺は基本マダムの味方なんだよ!
「目上の女性にそんな言い方したらダメだろ。ちょっと頭冷やしてこいよ。醤油と牛乳が切れそうだから買ってきて!あと、お母さんって甘いもの好きですか?」
「え?え、ええ…好きだけど?」
「じゃあケーキも追加でよろしく!はい、行ってらっしゃい!」
篠田は呆気に取られていたが、俺に財布を突きつけられて頷いた。
「……?は、はい…」
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