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第29話(十夢目線)

 五分ほど経ったところで、玄関の呼び鈴が鳴った。十夢はソファーから立ち上がり、リビングのドアフォンを覗き込んだ。画面に柚希の姿が映っている。  通話ボタンを押し、 「開いてるから自分で入っておいで」  と言ったら、直後にドアが開く音がした。「お邪魔します!」という声が聞こえ、次いでリビングに声の主が現れる。 「先生、こんばんは! お疲れ様です」  笑顔で挨拶してくる柚希。  十夢も笑みを返しつつ、リビングのロングソファーに誘った。 「いらっしゃい、柚希くん。こっちにどうぞ」  柚希の分のグラスを用意し、冷蔵庫にあった缶チューハイを注いでやる。彼はワインの類はあまり得意ではなく、甘いジュースのような酒が好きなのだ。常備しておかないと文句を言われるので、いつ来てもいいようにストックしてある。 「それで、今日は何の収録だったの?」 「深夜のBLアニメです。なんかアレ以来、受け役でよくオファーが来るようになっちゃって」  やや照れながら、柚希はグラスに唇をつけた。 「十夢先生に会えてよかったです。役の幅も広がりましたし、演技にも色っぽさが出てきたってよく褒められるんですよ。全部先生のおかげですね」 「いやいや、柚希くんの努力の賜物だよ。僕はちょっとお手伝いしたいにすぎない」 「でも元を辿れば、先生との『縁』が全ての始まりだったんですよ。先生に出会ってなかったら、おれ絶対声優になってなかったもん」 「そう?」 「そうですよ。今となっちゃ、この声は自慢です。あの時先生が褒めてくれたから、おれはこうやって活躍できているんですよ」 「ふふ、そう言ってもらえるとこっちも嬉しいよ。……身体を張った役作りに挑んだ甲斐があった」 「それは、まあ……」  途端、柚希の頬がぽっと赤くなった。間違ってもアルコールに酔っているわけではないようだ。本当に可愛い。 「どう? 今日もまた役作りしてみない?」  柚希の肩に手を回し、耳元に囁きかけてやる。 「…………」  柚希は少し目を泳がせていたが、やがて十夢に視線を戻すと、甘い溜息を漏らした。 「……もちろんです、先生」  その返答に満足し、十夢は唇を吸いながら彼の大事な部分をまさぐった。  今この瞬間だけは、『魅惑のニューハーフボイス』は自分のもの。その奇跡的な「縁」に感謝しつつ、今夜も声ごと柚希を堪能していくのだった……。

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