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最終話

 シャンパンは祝福の席で飲むことが多いという。  それにはきちんとした意味が存在する。  グラスに注いだ時のパチパチとする泡の音は『天使の拍手』という言い伝えがあり、その泡はフランスのシャンパーニュ地方では〝幸せ〟という意味があるらしい。  グラスの中の泡が下から上へと止まることなく流れていくのは『幸せが下から上へと半永久的に止まることなく続いている』……と、いう意味が込められているんだとか。  「なんだか……ロマンチックだな」  「何か言ったか?」  「いや、つい最近仕込んだシャンパンの持つ意味を思い出してたんだよ」  「なかなか奥深いだろ?」  「そうだな」  「だから俺はシャンパンが好きなんだけど·····もう一つ好きな理由がある」 「もう一つの理由?」 「航平のその髪の色に似てるから」 「髪?」 「あぁ。あの頃から、光に反射したおまえの髪の色……こんな綺麗なゴールド色だった。だから、シャンパンを飲む度に時々あの頃を思い出してた」 「そ……そうだったんだ」 「なぁ、航平?」 「なんだよ」 「……綺麗になったな。あの頃よりもっと綺麗になった」  俺の髪にゆっくりと触れ、綺麗になったと繰り返す隼人の眼差しは真剣で、今なら信じられる気がした。 「もうわかったからやめてくれ」 「十三年越しだ、好きなだけ言わせろよ」 「そ、そうだけど」 「よく顔を見せてくれ」  愛おし気に俺を見つめる隼人の手が髪から頬に移動すると、どちらともなく引き寄せられるようにゆっくりと唇を合わせた。  吐息と一緒に濡れた音を響かせ、確かめるような啄むキスは心地よくて、気持ちがいい。 「……んっ……はっ……あっ」 「航平……っ……好き、だっ……」  俺を好きだと言ったその想いは、十三年経ってやっと実を結ぶ。 「あのさ……十三年も経ったし、もうこっちかもしれないな」 「何が?」 「航平のこと……好きって言うよりも、多分……愛してる」 「お前……さらっと、言うなよ」 「少しくらい浮かれたっていいだろ」 「案外、情熱的なんだな」 「独占欲も強いし、嫉妬深い。色々教えてやるよ、これからゆっくりと。まずは俺のキスで反応する身体にしてやる」 「……っ、隼人っ……のキスは……嫌いじゃ、ない……」 「それはよかった」  俺たちはこれから先、こんな風に確かめながら十三年分の空白を埋めていくのだろう。  それは、楽しかった夜を想い返しながら聴くノクターンのように……ゆっくり、ゆっくりと……。 END

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