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第1話
生涯にひとり親友がいてくれたら、どんなことでも乗り越えられると信じていた。
この世界には男女の二つの性だけでなく、更に男女問わずα、β、Ωという三つの性が生まれた時から与えられる。
人口の八割以上を占めるβは所謂「普通の人」だ。殆どがβ同士の男女で結びつき、βの子どもが生まれる。αは人口の二割を満たない存在だが、世界の頂点は彼らで占められている。生まれ持った才能から、社会的地位や職業的地位の高い者が多い。そして最下層がΩだ。最も人口比では少ない。βともαとも違う特徴を彼らは持つ。それは、生殖において特化された性であるというところだ。女性だけでなく、Ωの男性にも子宮に似た生殖器が備わっており、妊娠が可能である。そしてΩ性はα性に特異なフェロモンを出し、αとΩは互いに求め合うということは小学生の高学年になれば保健の授業で習うものだ。
館本輝(たてもとあきら)は男性Ωである。
中学校で第二の性を検査することが常識ではあるが、輝の場合十一歳で初めて発情期が来た。
その兆候が現れたのは校内や外ではなくて、家の中だったのが救いだったのだが、人よりも早いそれに輝は恐怖を感じた。自分の体が自分のものでは無い気がしたのだ。
初めての発情期は何が何だかわからないまま薬を飲まされて、気持ち悪さと眠気を感じて終わった。
精通もまだ経験していない歳だった。
母親が同じΩ性であり、輝が同じΩだとわかった年に家をリフォームして輝の部屋を作ってくれた。
フェロモンが漏れないよう、そして防音である特注の部屋が必要だった。
発情期を迎えた輝は、学校を一週間休んだ。
母親が今後の薬の飲み方や周期について教えてくれたし、αである父親も母親のことを知っているから、なるべく過ごしやすくなれるよう気を使ってくれた。
そして、Ωにとって将来切っても切り離せないであろう番について。Ωは男性、女性に関わらずα性に項を噛まれると一生そのひとにだけ発情すること、発情期に体を繋げると男性でも妊娠することがあると教わった。
幼かった輝にとって、それはあまりにも怖いものとしてインプットされてしまった。
学校へは表向き体調不良で休んだことになっていたが、発情期が始まったことは母親から伝えられていたようで、登校するなり担任の先生に保健室に連れて行かされ、今後発情期で困ったら来る様にと保険医に言い聞かされた。
輝にとって困ったのは、親友の侑一のことだった。
小学生の時からすでに人より一回りほど体の成長が早く、また頭の回転も良い彼は確実にαだと言われていた。第二の性はあまり大っぴらにするものでは無いとされていたが、輝も侑一はαではないかと思っていた。
通常時は今まで通り遊べそうだが、親友の前で発情期が来たら……と思うと怖くなった。
もしかしたら、そんなことが起こったらもう二度と遊べなくなるかもしれない。それはまだ幼い輝にとって最大の懸念となった。
一週間も学校を休んだことで侑一から心配されたが、季節性のインフルエンザだということにした。
だが、親友にはそんな嘘はすぐにバレてしまう。
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