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第1話
ありふれたスーツに黒縁の眼鏡、髪はきちんと整え、どこから見ても真面目なサラリーマン。
それが俺、相川美晴 の昼の顔。
ひとたび仕事が終わればラフなジャッケトに軽い銀縁の眼鏡をかけ、さらりと流れる黒髪をかきあげ、夜の顔へと変わる。
そうやって夜の街へと好みの男を探し、一夜の快楽を楽しむ。それが俺のストレス解消法だ。
愛だの恋だのは面倒なだけで、割り切った関係を楽しめればそれでいい。
身体の相性が良いに越したことはないが、時間と体力を無駄にしたと思える相手も少なくない。
だからこそ人の多い時間に出かけ、少しでもいい相手を見つけたいのだ。
今日もそのつもりで仕事を終え、部下の退社を見届けると帰り支度を始めた。
一度帰って着替えたらいい時間になるな。
腕時計に目をやりながら今夜の相手を想像して口元を緩める俺を部長が呼んだ。
「相川君、この書類だが君は確認したのかね?」
部長が手に持っている書類に嫌な予感が走る。
その書類は確か部下に任せていたはず。それがどうして俺を通り越して部長の元へ行ってるんだ。
「あ、いえ……」
渡された書類をざっと見ただけでも数か所の間違いが目に留まる。
こんなものをよく提出できたものだと、とっくに帰ってしまった部下に苛立ちが募った。
「課長の君がしっかり確認してくれないと困るよ」
「申し訳ありません。すぐに訂正します」
就職して6年目に課長になってから1年が過ぎた。
それなりに早い出世ではあるが、所詮上にも下にも気を使わなければならない中間管理職だ。
深々と頭を下げる俺に「頼むよ」と言い残して部長は去って行った。
「冗談じゃない……」
デスクに座り直し、吐いた溜息は静まり返ったオフィスに吸い込まれた。
訂正した書類をデータで部長に送り終え、ネクタイを緩めて大きく息を吐いた。
「一旦帰って着替える時間は……ない、か」
腕時計に視線を落とし、もう一度大きな溜息を零した。
今日は諦めようかとも考えたが、部下のミスのせいでなぜ俺が我慢しなければならないのだとだんだん腹が立ってきた。
飽和寸前の俺のストレスはこのまま帰ってもきっと俺を眠らせてはくれない。
あまり昼の姿でうろつきたくはないが、今はとにかく何もかも忘れるくらいに抱かれたい。
整えていた髪を軽く崩し、いつものバーへと歩き出した。
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