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第2話
店内に入ると少し時間が遅いせいもあってか人影はまばらだった。
いつもならすぐ2~3人は寄ってくる人影も今日はちらちらと視線を向けてくるだけで声をかけてはこない。やはり真面目なサラリーマンじゃ声をかけるのに躊躇うのだろう。
うっかり手を出して本気になられでもしたら面倒なだけだ。俺でもよほどのタイプでもなければ声はかけない。
つまりここは相手の本名も素性も知らない、ただ一夜の出会いを求める男が集まるバーなのだ。
カウンターに座り、注文したカクテルを待ちながらさりげなく周囲に視線を滑らせた。
この格好じゃ警戒されるかもしれないが、これはこれで楽しいかもしれない。
昨日今日遊び始めたガキじゃないんだホテルに誘い込めばどうとでもなる。
いつもとは違う状況に微かに口元が緩んだ。
あとはいい子がいれば……真面目で、少し不器用で、だけど示す反応はかわいい。そんな子がいい。あまりにも遊び慣れている相手だと興醒めしてしまう。年下なら尚いいが今夜はあまり贅沢も――。
獲物を探すように彷徨わせていた俺の視線はゆっくりと開くドアから入ってきた人影にぴたりと止まった。
短髪に長身、切れ長の目は気難しそうに見え近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
だがよく見るとその顔にはまだどこかあどけなさが残っている。
緊張からか表情の固い眼差しの奥の瞳はきょろきょろと忙しなく動いていて、こういう場所は不慣れだと物語っていた。
まさに俺の求めていたタイプだ。この子を誘わない手はない。
カウンターの隅に座り、戸惑いながら注文をしているその子へと静かに歩み寄った。
「こんばんは。隣、いいかな?」
ガチガチに固まっている彼の身体を解すように努めて優しい声音で微笑みかける。
「は、はい!」
敬礼でもしそうな勢いで、この場には不似合いな声量に集まった視線に恐縮した彼は「すいません」と項垂れた。
この真っ白な彼を俺の色に染めてやりたいと身体の奥がゾクソクと粟立つのを感じた。
「まだ相手が決まっていないなら、僕と……どうかな」
きつく握りしめられた彼の手にそっと手を重ねると彼の身体がびくりと揺れた。
いちいち反応がかわいい。
思わず緩む口元で彼を見つめる俺に耳まで赤く染めながら何か言いたげにぱくぱくと口を動かした。
「僕じゃその気にならない?」
彼が俺を十分意識している事も、俺の誘いを断らない事も分かっていた。
ただ不慣れな彼がもう一歩踏み出せる後押しをしたにすぎない。
「あ、あなたみたいなキレイな人……俺、初めてで……」
大きく首を左右に振り、重なる手を見つめながら頬を染める彼に俺の方が我慢できなくなりそうだ。
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