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第1章 契り 17※
《perspective:亜矢》
綺麗な月が、寂しげな暗闇を控えめに照らす。
それを見ていたら何故か胸が詰まって、結月さんの体温をもっと深いところで感じたくなってしまった。
「僕を愛してください」
遂に溢れ出したその言葉に、彼はやや開いた目を向けたあと、柔らかく微笑んで、そっと僕を抱き寄せた。
「いいのか?」
いつもより低く響いた声にドキリとしながらも、「はい」と小さく答えることしか出来なかった。
名前を呼ばれて上を向くと、軽く唇が触れる。彼は僕の腰と頭を手で支えて、何度も喰むような口づけをしながら、優しくベッドの上に横たえた。
結月さんの細くて長い指が僕の指に絡まる。その瞬間、上唇と下唇をなぞるように舐められて、自然と開いた口の中に熱い舌がゆっくりと入ってきた。舌先を軽く抑えて絡め取られ、さらに奥へと攫われる。濡れた音がやけに頭に響いて、体中が痺れるように熱くなってゆくのが分かった。
「ぅん……ふ……」
息継ぎをする度に吐息が漏れる。
口の端から唾液が零れるのを気にする余裕もなく、甘い口づけに溺れた。
名残惜しげに銀糸を引いて離れる唇をぼうっと見ていると、頬に手が添えられて覗き込むように見つめられる。
その紺青の瞳に、僕は何度、心を動かされてきたことか。
熱っぽく官能的な、見たことのない彼の表情に、鼓動が速くなる。
「っん……!」
髪や頬にいくつもキスを落とされたあと、首筋に唇が吸い寄せられた。その間にも、彼の手によってボタンが次々に解かれている。
すべてが露わになったのを感じ取り、あまりの恥ずかしさに僕はギュッと目を瞑った。
それでも、気配で彼の視線が全身に注いでいるのが分かる。
無駄だと知りつつも必死に隠そうとする僕の様子を見てか、結月さんが「亜矢」と優しく声を掛けた。
「大丈夫だから、ちゃんと見せて」
諭すようにそう言って、僕の手をそっと掴んで退かす。
「綺麗だよ、亜矢」
その言葉に、僕はビクリとして目を開けた。
「そんなこと、ない……」
――綺麗なんかじゃないよ。だって、こんなにも、汚れてるのに……。
数日前、男達に付けられたキスマークは完全には消えてはいなかった。
痣のように、無数に残されたモノ。汚らわしい、その印し……。
悔しくて、ギリと唇を噛み締める。結月さんは僕の考えていることが分かったのか、その赤紫の跡に手を触れた。
「こんなもの、関係ない」
触れるか触れないかの愛撫に、勝手に体が震える。
「綺麗だ。全部……」
「あっ……!」
ツ、と指先が胸の突起に触れる。
「っあぁ……ぁふ……」
滑らかな指の腹で優しく捏ねられ、その刺激に無意識に口から声が漏れた。
「だめ、結月さ……」
「ふ、ここも可愛いんだな」
「っや……ぁ」
小さく立ったソコを、ピチャと音を立てて舐められる。次には軽く歯を立てられ、舌を巻くようにキュッと吸われた。微弱な圧と、先端に感じるぬるりとした感触、そして何より、彼の整った薄い唇がそこを喰んでいるということを意識するだけで、切ないほどの悦が迫り上がってくる。
「っあ、んっ……!」
ねっとりと舌を這わされ、口の中で舌先で転がされると、ピリピリと背筋に電流が走った。思わず、逃れるように胸をそらしてしまう。
「やぁ……だ、めっ……」
「……ん?」
「っ……も、う……」
――カラダが甘く痺れて、何かおかしい……。
「ひぅ……あ、ッ――」
ビクンと体が跳ねたかと思うと、パタタッと自分の腹に白濁の液を吐き出した。
結月さんが、それを細い指に絡め取って舐めるのを見て、羞恥のあまり俯いてしまう。
「そんな……」
胸だけで、達してしまうなんて……。
放心状態になっていると、結月さんが目を細めて「悦かった?」と少し意地悪なトーンで訊いた。
ふわふわと熱に浮かされたまま、彼のシャツの袖をギュッと握る。
「……僕っ、こんなに優しくされたら、壊れちゃう……」
堪らず泣き言を漏らす。
目の前の青い瞳が妖しく揺れたかと思うと、徐にそのシャツが肩から落とされた。
「そんなに可愛いことを言われると、我慢できなくなるだろ」
彼のその言葉は、再び与えられたキスの心地良さの中に消えた。
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