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第2章 序

《perspective:沙雪》 朝のラッシュアワー。 駅に着くなり、互いに無関心な人間たちが肩をぶつけ合い、閉じ込められた箱から逃れてゆく。自分も波にのまれながらそこから出される。 どうにも嫌いだ。成すがまま、立ち止まることもできやしない。自分の権利を全て排除されているようで。 多くの学生に混じり、俺は足早に大学へ向かう。冷たい風が頬に当たる。暦上は春なのに、身を凍らす寒さが街を包んでいた。 季節を肌で感じて、亜矢と出会ってもうすぐ半年が経つことを悟る。 昨晩の行為が蘇る。 いつものように亜矢を抱いた後、行為を思い出しながら自慰をする自分。なぜか満たされない。大好きな亜矢をこの手で抱いているのに……。 亜矢のくぐもった苦しそうな声が頭の中に残っている。何かを必死に耐えているようなあの顔は、初めから変わっていない。 一体何があいつをそうしているのか、考えるだけで嫉妬に似た感情が湧き上がる。 半年前のあの日、亜矢に出会わなければ、一生親しくならなければ、きっと、こんなに心を掻き乱される事も無かっただろう。 あいつの魅力に取り憑かれてしまったのは、神の悪戯だったのか、俺への罰だったのか。 ――愛することは、時に人を鬼に変える。 きっと出会った時点で、それはもう、逃れようもないことだったのだ。

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