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第2章 独占 03※

《perspective:亜矢》 僕は夕食を作りながら結月さんの帰りを待っていた。 対峙した二人の間は、空気が張り詰めていた。 沙雪さんを見た時の結月さんの目は凄く怖かった。あの二人、本当に一緒にして良かったのだろうか。 一体何を話しているのだろう。それよりも、あんな僕を見て沙雪さんはどう思っただろうか。 ガチャン、と玄関先からドアの開く音がする。僕は急いで彼の元へと駆け寄った。 「お帰りなさい!……遅かったですね。もうすぐご飯できますから」 「悪い、渋滞にはまった」 柔らかな微笑を浮かべた結月さんを見て、何故かほっとする。 「……亜矢」 キッチンのほうに踵を返した途端、後ろからふわりと抱き締められた。 「っ……結月さん?」 「寝室、行こうか」 耳元に熱い息がかかる。僕は少し困惑して彼の腕に手を添えた。 「え……で、もっ!ご飯は?……」 「――先に亜矢が欲しい。……駄目?」 切羽詰った口調に思わず顔が赤くなる。 どうしたんだろう。こんなに余裕無さそうな結月さんは、初めて見る。やはり沙雪さんと何かあったのだろうか。 それを訊く間もなく、結月さんに抱きかかえられ、寝室に連れて行かれた。入るなり、直ぐにベッドに押し倒される。 「っ……ゆ……ぅ……んっ」 息つく暇もなく口づけを交わす。性急に胸元までニットをたくし上げられ、大きな掌が僕の肌を滑らかに動いた。 「あっ……結月さんっ……」 「――甘すぎるな。先に風呂のが良かったか」 首筋に唇が吸い寄せられたかと思うと、ほとんど聞こえないくらいの声で、彼がそう呟いた。 何が甘いのだろう、とふわふわする頭で思っていると、再び口づけられる。 親指で胸の突起を弄りながら、舌を絡めて貪るようなキス。もうそれだけで何も考えられなくなる。耳に、首筋に、そして体全体へと舌が這わされる。一つ一つのねっとりとした愛撫に全身が震えた。 「ふ、……ん、んっ……」 「敏感だな、亜矢は」 「っ……だって、きもちい、から……」 手が下に伸びてきて下衣をすべて脚から抜かれた。その露わになった中心を見つめられているのが分かって、思わず掌で顔を覆う。 「もうこんなに濡らしてるのか?」 ふ、と笑って内股を撫でられる。焦らすような手つきにぞくりと熱が走る。ちゅ、と太腿の内側にキスをいくつも落としながら脚を触るだけで、その中心に刺激を与えてはくれなかった。 「も……結月さんっ」 「……なんだ?」 「……触って、ください」 我慢ならずにそう口に出すと、結月さんが目を細めて僅かに口角を上げた。 「嫌だ」 「っ……なんで……」 「自分で、気持ちよくしてごらん?亜矢がしてるところ、見せて」 予想外の言葉に、僕は羞恥のあまり顔を背ける。どうしよう、と俯いていると、追い討ちをかけるように彼が言った。 「……やってくれないなら、今日はお預けだな。亜矢のスキなの」 「ぃ……意地悪だっ」 こんなに熱を持ったもの、抑えられるわけないじゃないか。仕方なく僕は自分のソレを、右手で扱い始めた。 「っふ……うんっ……」 粘着性のある先走り液で濡れた自身が、指で擦るたびにクチャクチャと音を立てる。 いつも結月さんによって欲を満たされている。だから正直、自慰なんかすることがない。こんなふうに、強要されない限り。 自分のぎこちない手の動きがじれったい。 彼はただ、そんな僕を眺めているだけだ。 自分では満足できないもどかしさがつのり、涙で視界が曇る。 彼の情欲を帯びた視線が僕を捕らえて離さない。見られているという、この恥ずかしい状況だけが僕を刺激した。 今日の結月さんは酷い。こんなに、こんなに欲しがっているのに。もう、限界なのに……。 「っ……僕、結月さんじゃなきゃ……」 「……俺じゃなきゃ……?」 解ってる、くせに。 「結月さんじゃなきゃ、僕はっ……気持ち良くならないのっ……」 恥ずかしい、浅ましい。それでも早く開放されたい。 「……シて?……」 結月さんの手を取り、顔を真っ赤にして懇願する。すると満足そうに彼が微笑んだ。 「……いいこだ」

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