48 / 126
【番外編】オトナのやり方 03
「なんでこんな、体がだるいんだろ……」
朝、一緒に風呂に浸かっていると亜矢がぽつりとそう言った。
「まさか、昨日のこと覚えてないのか?」
「え?結月さんと部屋でケーキ食べて、シャンパン飲んで……。そしたら、なんか、結月さんがやたら可愛く見えて……」
可愛い、とはなんだ。襲われると思ったのはあながち間違いではなかったのか。
少し考えている様子の亜矢を横目で見ながら溜息をつくと、「なんとなく思い出しました」と、亜矢は顔を赤くして頭を抱えた。
まったく、この子は本当にしょうがない。
「……ああやって、他の男と寝てたんだな」
ボソリと呟くと、「え!僕、何したんですか?」と亜矢が狼狽える。
「いや、だいぶ煽られたから」
最後は返り討ちにしたが、とは言わなかった。
「もう……貴方がそうしろって言ったんですよ」
「はは、そうだったな」
男どもに好き勝手される前に、さっさと終わらせろ、と教え込んだのはこの俺だ。
そういえば、初めの頃、そうさせるために亜矢に手取り足取り教えた時は、恥ずかしさのあまりか行為の途中で泣いていた。
いくら酒のせいで箍が外れていたとはいえ、こんなにまでなっているなんて。
「でも……昨日のことちゃんと覚えてないけれど……結月さんだけ、ですよ」
「何が?」
「本気で、気持ち良くさせたいって思うのは……」
そう言って耳まで真っ赤にする亜矢が愛おしくて、額に軽くキスをした。
「解ってる。ああいうふうに求めるのは、俺だけだってことも」
いや、それよりも重要なことがある。
「亜矢、俺以外と酒は飲むなよ。絶対だ」
あんな姿、他の男になんか絶対見せてやるものか。
密命を解いたというのに、こうしてまた一つ、縛るものが出来てしまった。
『オトナのやり方』 終
ともだちにシェアしよう!