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第2-2話勇者の悪癖

「つまんないの。オレ、ちょっとその気になったから、体が疼いちゃったんだけど……あ」  突然エルジュが立ち止まって前を指さす。  つられてグリオスも足を止めて前方を見れば、そこには薄水色した半透明のスライムがプルプルと体を揺らしていた。  二人に気づいたスライムが体から触手を数本出し、鞭をしならせるように虚空を鋭く叩く。明らかな威嚇行動。グリオスはすぐに剣を抜いて構える。  魔物の中では最弱。幾多の戦闘をこなしてきた二人ならば余裕の相手。  ふとグリオスの視界の脇で、エルジュが頬に人差し指を当てて「んー……」と思案する姿が映る。  そして、ふらりとエルジュの体が揺れたかと思えば、吸い寄せられるようにスライムへ近づいていく。  腰の剣は鞘に挿したまま。  麗しい顔はどこかうっとりして、頬は紅潮している。  ヤバい! と思った瞬間、グリオスはスライムとエルジュの間に割って入り、両手を広げてエルジュの動きを制する。  無防備な背中を見逃すほど、スライムは愚鈍ではなかった。 「バカッ、変な気を起こすなエルジュ! いくら最弱スライムでも、捕まったら――うわっ!」  にゅるり。グリオスの体にスライムの触手が無遠慮に絡まる。

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