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第34-2話仕組まれていたもの

 おもむろに男は魔王の口をそっと手で覆い、「大丈夫。落ち着いて」と優しく声をかける。  途端に魔王の目から鋭さが消え、どこかうっとりとした恍惚の色が滲んだ。  小さく笑いながら男は魔王の頭を撫で、エルジュとグリオスを見交わしながら口を開く。 「前々から勇者エルジュの噂は耳にしていた。光の加護を受け、どんな魔をも瞬時に退ける力を持つと……まともに勝てる相手じゃないことは、最初から分かっていた」 「ふーん。じゃあ派手に悪さしないで、人の迷惑にならないよう生きていれば良かったんじゃないの? 別にオレ、一匹残らず魔物探し出して殲滅させる気なんてないし。困ったって言われたから退治しに来ているだけだし」 「俺はそれでも構わないんだがなあ……我が魔王には都合が悪くてな。魔物を早く率いなければ、サキュバスの長である大婆様の妾にさせられて、精を搾り取られる運命にあったんだ。成らざるを得ないだろう」  ……魔王とは、そんな理不尽で哀れな存在だったのか。  倒すべき相手だと分かっていても、グリオスの魔王に対する同情がさらに膨れ上がる。  少し倒しづらいとすら感じ始めてしまったが、エルジュはまったく容赦しない。 「そっちの事情なんて知ったことじゃないよ。好き自由にやって死期を早めるか、屈辱に耐えながら長く生き延びるかの違いでしょ? で、魔王の道を選んだんだから納得済みだよね?」 「ハハ、確かにその通りだ。だが――」

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