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love you, too

 抱き締めるつもりなんて、多分無かった。  だから、抱き締めた後で驚いたのはオレの方。  その後どうして良いのか分かんなくて、抱き締めたまま、呆然としてたのも、オレ。  何だかもう、情けなくてどうしようもなくて。  だけど、腕の中に収まってる華奢な体が、どうしても愛しくて。  体を離すことも出来ずに、ただ抱き締めてることしか出来なかったオレの。  背中に、ゆっくりと。躊躇いがちに。  伸びてきた君の腕。  驚いて、突き放したオレは。たぶん、情けないような、だけど戸惑ってるような顔をしてたんだと思う。  一瞬驚いた後で、君は。ゆっくりと苦笑した。 「なんで驚くの?」 「いや、だってさ……」  真っ直ぐに問いかけられて、何を言って良いのかも分からずに。  ただただ、驚いたままで君を見つめていたら、ちょっと照れたみたいに、君が笑った。 「……ビックリしすぎじゃない?」 「だって」 「さっきから、そればっかだね」 「……いや、だってさ」 「ほら」  くすくす笑う君。  つられて笑ってしまってから、違うって、となんとなくツッコミを入れて。 「……なんで?」 「何が?」 「何で、今……その……」  抱き締め返してきたのかと。聞きたくて聞けなかったのは、ウブに照れたからとかじゃなくて。  君が、ゆっくりと笑ってたから。 「…………なんで、わらえる……?」 「……相沢が言ったんだよ。もっと笑えばいいのにって」 「……だからって、今……」 「だって嬉しいから」  けろりと。当然のことのように呟く君。  もう、何が何だか分からなくて。 「嬉しかったんだよ、相沢。もっと笑えばいいのにって、言ってくれたり。……オレのこと、見ててくれる人がいたんだって、思える心強さとか。……おはようって、言ってくれるのとか。……ずっとずっと、嬉しかったんだよ」  どうしようもなくて途方に暮れてたオレに、君は。  真っ直ぐな瞳で、ゆっくりとそう言った。 「今のも……嬉しかったんだ」  照れて赤くなる頬。  だけど、真っ直ぐに見つめてくる瞳。  伸びてくる指先。  頬に触れられて、見つめ返した先で。  君がゆっくりと微笑う。 「嬉しかったんだよ?」  ふふ、と。  嬉しそうに笑うから。  だからもう、どうしようもなくて。  また、君を抱いていた。  抱き締められて、ホントのホントに驚いたんだけど。  でもなんとなく嬉しかった。  ホントは、もっとずっと前からこうして貰いたかったんだって、そう思った。  心地よくて、落ち着いて。  この場所が好きだって、ホントにそう思って。  だから、背中に腕を回してみたら、驚いた顔した相沢に突き放されて。  ちょっと哀しかったのに、当の相沢が、戸惑ってどうしていいか分かんないって、ちょっと情けない子犬みたいな顔するから、思わず苦笑い。 「嬉しかったんだよ?」  驚いたままの君に、ずっとずっと言いたかった一言を呟いたら、君がまた、抱き締めてくれて。  心地よさにホッとして、今度こそ、ちゃんと抱き締め返した。  大切にしたい時間だと思った。  大事にしたい人だと思った。  この場所を、この時間を、無くしたくないと思った。 「だいすき」  まだ言って貰ってない言葉を、自分から告げて。  照れて真っ赤になってる顔を覗き込まれた後。 「オレも大好きだよ」  満面の笑みを浮かべた君に、同じ言葉を返して貰って。  温かくなった心を抱えて、サボった5時間目を。  オレ達はきっと忘れないだろうと思った。

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