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第8話

「…………痛い」 「ごめん」  翌朝。  伊吹が目を覚ました時には、もう馨はベッドにはいなかった。ただし部屋にはちゃんといて、 きっちり服を着こんで、勝手知ったる親友の家と言わんばかりにキッチンで朝食を作り上げていた。  腰と後孔の痛みに横になったまま伊吹が呻けば飛んで来て、ベッドの脇で正座して殊勝な表情で謝りはしたが、どうにもその顔は緩んでいる。 「絶対裂けてる」 「いや、裂けてはなかった。大丈夫」 「か、確認済みとかありえないだろ! デリカシーどこに落として来た!」 「いや、心配だったから念のため!」  思わず身体を起こしかけるが、昨日の余韻が強く残っていて途中で伊吹は諦めベッドに逆戻りした。 「……それで、あの、最終的に分かったか?」 「はい?」  イケメンが正座して、上目遣いで伊吹を見上げる。  あざとい、反則だ。伊吹は思いがけず朝からドキッとしてしまう。 「自分の中にある感情が、友情なのかそうじゃないのか分からないって言ってただろ。伊吹はその、最後まで許してくれたけど、結局はどうだったのかって」 「……オレにとって馨はさ、親友なの。一番の友達。ずっと友達付き合い続けていきたい」 「――――うん」  伊吹としてはそこに変わりはないのだ。でも、そんな沈んだ声は出して欲しくない。  続きを口にする。 「でも今日から、オレ達の関係性に新しい名前が付いてもいいと思ってるよ」 「え」 「自分でもホントびっくりだけど、オレ、お前にされたことに全然忌避感なかった。でもそれはオレが男もイケるというよりは、多分相手が馨だったからで」  伊吹は想像してみるが、自分の恋愛対象の範囲が一気に男性まで広がったとはどうしても思えなかった。  そうではなくて、きちんと知っている大事な友人だった馨だったからこそ、そういう関係にもシフトできたのだ。きっとそう。 「……付き合ってくれるってこと?」 「そういうことになりますね」 「マジで……?」  久々に親友の晴れ晴れとした顔を、笑顔を見る。  馨は泣きながら、でも口元を緩々にして、それからまだへばっている伊吹にちゅっと口付けた。  一晩明けて、冷静さがすっかり戻っていてもやはり伊吹はそれを嫌だとは感じない。愛おしと、そう思う。  だが。 「今日も沢山伊吹のこと可愛がってもいい?」  すごくいい笑顔でそう訊かれたのには、さすがに頬が引き攣った。 「う、それはお手柔らかにお願いします。オレの尻にも配慮してあげて」

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