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love you, too
「ぁいざ……?」
「おはよ」
「……おはよ」
「昨日よか声はマシだね」
熱はまだまだだけど、と笑いながら額に触れてきた相沢は、新しい冷えピタを貼りながら、何かいるもんある? なんて聞いてくれる。
「……ずっと……いてくれたんだ?」
「そりゃそうでしょ」
「なんで?」
「なんでって……心配だったし……」
ごにょごにょと歯切れ悪く呟いた後で、相沢はわざとらしく話題を変えた。
「それよか。いるもんないの? 水とか朝飯とかさ」
「……じゃ、水」
「ん。……何か食べられそうなもんある?」
「……」
「食べなきゃ薬飲めないでしょ」
昨日のリンゴ残ってるよ、って優しく言われて思い出すウサギに小さく笑ってから。
「うん。じゃあ食べる」
「よしよし」
良い子良い子って頭撫でられて、やめろよっ、て笑いながら、くすぐったいような嬉しい気持ちと、苦しいのとがごちゃ混ぜになる。
台所に向かう後ろ姿を目で追いながら、フラつく体を起こして。
「…………好き?」
呟いたところで返事がないのは解っているけれど。
だけど、直接ぶつけていいのか、とか。
----あれは、自分の都合の良い勘違いだったのか、とか。
そこがよく分からなくて、言えずにいるんだ。
熱くて寒くて息苦しくて、寝たり起きたりを繰り返してた時の----
「はい、水とリンゴ」
「っび……」
「……び?」
「……っくりした」
「……なんで」
「……ちょっと」
キョトンとしてる相沢に、ぎこちない苦笑を浮かべて見せてから。
昨日より増えてるウサギが載ったお皿と水を受け取った。
オレも行くと言った朋弥の一言を、バカじゃないの、の一言で却下。
薬飲んだから平気と言い張るのを、無理、の一言ではねつける間。
お昼ご飯にとリンゴを剥いて、あっためて麺さえ入れれば食べられるようにした、うどんを用意して。
薬を飲み忘れないようにと目立つところに置いてから、沸かしておいたお茶をポットに移して、自分の分にと勝手に出した湯飲みに注ぐ。
「なー」
「何? 今日は休まなきゃ駄目だよ」
「……あのさぁ……」
「……何?」
「……なんでここまでしてくれんの?」
「……」
よれよれと台所に出てきて床に座り込んだ朋弥に、上目遣いでそんなこと言われてギクーッとなった。
下心なんて無かった。絶対。
----でも。
昨日、オレは結局。
じっと見つめられて、気まずく目を逸らして湯飲みに口を付けながら、それは……、なんて言葉を濁す。
「なぁってば」
「…………とりあえずさ。布団戻れば? 酷くなっても知らないよ」
「いいよ、そんなん気にしなくて」
「いくないでしょ」
ほら、なんて追い立てようとした瞬間
「--------オレのこと、そんなに……好き、なの?」
「っ!? ----あつっ」
そんな風に言われて、湯飲みごとお茶を床に落とした。
朋弥の声が震えてたなんて気づきもしないで、何言ってんだよって笑おうとしたけど。
割れた湯飲みのカケラを拾おうとして、朋弥がゆっくり笑ってるのに気付いて。
何、って。ゆっくり朋弥を見つめたら、熱で紅い顔しながら、ふわっと笑う。
「バーカ」
くすくす笑った後で
「……どーせなら、起きてる時に……キスしてくれたら良かったのに」
「な……」
「そしたら----こんな、恐くなかったのに」
熱のせいだけじゃなく潤んだ瞳に見つめられて、我慢できずに抱き寄せた。
「あいざ……」
「好き。……好きだよ。バカみたいに好き」
「……」
熱い体を抱き締めて呻くみたいに呟いたら、耳元で小さな笑い声がして。
背に腕が回される。
「恐かった。……オレの勘違いだったらどうしよって……。……こわかった」
泣きそうな声で笑う朋弥に、強引なキスをして。
「好き」
「………………感染(うつ)るよ」
「いいよ。半分貰う」
「バカじゃない」
「バカみたいに好きって言ったとこじゃん」
「んっ」
ゆっくりと触れ合わせた熱い唇に。
触れられる幸せを味わい尽くした後。
「……行ってくるね」
「ん」
「……ここに、今日……また、帰ってきてもいい、かな……?」
「……ん」
「----ありがと」
もう一度唇を寄せてから、朋弥が布団に戻るのを見守って、こぼしたお茶と割れた湯呑みを片付けていれば。
もぞもぞと布団の中で体勢を変えて、こっちを向いた朋弥が、そっと笑う。
「……律儀だね、あいざぁ」
「朋弥が踏んで怪我したら困るからね」
「……そこまでマヌケじゃないよ」
「心配なんだよ。----大事な人だからさ」
「っ……」
照れたらしい朋弥が、バッと布団の中に潜り込んで、そっと目だけを覗かせるのが、堪らなく愛しい。
しゅたっと走って、朋弥の側で立ち止まって。見上げてきた潤んだ目に、煽られたどこかを理性で押しとどめて。冷えピタに覆われた額を避けて、目元に唇を寄せた。
「----行ってきます」
「……いってらっしゃい」
行ってきますって家を出たオレを。
きっと君は、お帰りって、迎えてくれる。
それは、誰にともなく言いふらしたいほどの幸せなんだよ。
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