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苦しい記憶
雪side
「っおかあさん!…どこいくの…?」
「邪魔よ」
「まって…!!置いてかないで!!」
バタンッ
重たい鉄のドアが閉まった音が耳に鳴り響き、雪は暗闇の中、身体を丸めてひたすらに母の帰りを待った。
1日経っても帰って来ず、母が帰ってくるまでの丸3日間、当時4歳だった雪は何できるはずもなく、身を丸めて震えるしかなかった。
暴力は振るわれなかったものの、雪の存在自体に母は興味がなかった。
人からの愛情というものを知らずに育った雪は、自分の価値がわからないまま生きていた。
雪が施設を出て高校生に上がった頃、なんとなく夜の繁華街へ繰り出した。すると、男に手を引かれて、
「君可愛いね?5万円でどう?」
と告げられるが、当時無知だった雪にはなんのことか分からず、黙って男についていくだけだった。
男に手を引かれてついた場所はラブホテルで、
「君、男の子だったんだ。あまりにも可愛い顔してたから女の子かと思ったよ。けどこれもこれでありだね」
と言われて、雪が未知の世界への扉を開けた。性行為というものをしたことがない雪にとって、最初は苦痛でしかなかったが、今まで人とろくに会話もせず、人肌にも触れられなかった雪にとっては、肌を重ね合う性行為は斬新なもので、そこに愛がなくても少しの温かみを感じた。
行為が終わった後に差し出された5万円を渡されて、"今日はありがとう、またね"と、雪に告げて男は部屋から出て行った。
人からの愛情をもらったことがない上に、感謝の言葉を初めて体感した雪は、今までにないくらい嬉しくて、だけど、どこか儚い気持ちには目を瞑り、"これが自分の価値なんだ"と思い知った。
祖父母が残してくれた貯金金額も徐々に減りつつ、豪遊などはしなかったが、コツコツと貯めた自分の価値の対価で生活をしていた。雪は自分の価値を確かめたくて、ここに居る『高木雪』という自分自身を確かめたくて、手当たり次第に男をひっかけたり、誘惑に乗ったりしていた。
時に、前の巨体男のようなハズレくじを引く時もあったが、それはそれで仕方がなかった。だってその状況さえも、自分自身の価値への対価なのだから。
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