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第71話 那津
やっと・・そんな風に思えて身体の力が抜ける。
ともちゃんだけが世界のすべてになる。
「ようやく集中したか」
「・・・ん」
優しいしともちゃんは・・
「じゃあこっからも俺だけ見てろ」
「・・・ぅん」
優しいだけじゃない。
力強くそんなことを言われたら、あとはもう決意して、
今度はオレから舌を絡めて
閉じようと必死にしてた脚の力を抜いた。
このヒトが好きだ。
正直セックスなんて誰としたっておんなじだって思ってた。
ただ欲の吐き出しを、
独りより二人でした方が気持ちがいいからシてるってくらい。
おまけにそれがお金になるなら、
オレはそれを喜んでするって思ってその通りに生きてきた。
男同士なんてなにも産みだせないのに、
誰かに真剣になるなんて怖すぎて出来ない。
オレ達みたいのは誰かを好きになんてなっちゃったらもう
あとは哀しい結末が待ってるだけで、
これ以上、傷つく人生はいやだったのだと思う。
だからきっと、真っ正面から向き合うことを
オレはいままでしてこなかったのだ。
それなのに・・・きっと・・・だからこそ。
ともちゃんだけにはいいだろうと思う。
このヒトにならもしも騙されても傷つけられても、
なんていうかそういう悲しいことや辛いことたちすらも、
ともちゃんからもらえるものならぜんぶを、大事にできそうな気がする。
「んぅ・・っ・・」
キスをしたままで、
ともちゃんの手のひらが肩から二の腕を撫でると全身がビクつく。
久々に肌に触れる相手は、男はオレが初めてでおまけに・・・
ーーお前は特別だーー
なんだかすごい台詞をサラリと言って、
オレを見つめてくれるヒト。
ともちゃんが言っていたように、
素肌で股を開いて腰を振るって、実はめちゃくちゃ尊くて、
めちゃくちゃ特別な事だったのかもしれないってようやく実感する。
本当は特別な人とだけ、
してこなきゃいけなかったことだったのかもしれないって
わかった気がする。
ーー俺は単純にこれから好きなヤツとセックスするんだって思ってるーー
ともちゃんが、オレと抱き合うことはとても単純な理由だと言ってくれて、
オレはいままでの全ての経験が
なんだかもうまったく意味のないモノになっちゃったって
・・・もしかしたらそうであって欲しくて・・・幻想を抱く。
「はぁ・・っん・・」
舌が絡むキスなんてもう何度もしてきたのに、
ともちゃんのだけは違うように感じるのは勘違いなんかじゃない。
「わかりやすく声出せよ。
お前がどうされたらどう感 じるのか、、、ちゃんと知りたい」
そんな風に言われてしまって、けれどもそんなことは恥ずかしすぎて、
素直にはとても言えそうもない。
「だからハズいんだってば」
ともちゃんはズルい。
言葉尻はどこか強くて有無を言わせない物言いなくせに、
肌に触れるその言葉を発する紅い唇は、
びっくりするくらい柔らかくてあったかくて
首 筋に
鎖 骨に
優しくゆっくり這 っていく。
「はぁ・・っ・・・」
久しぶりのその感覚は、
こんなに恥ずかしくてこんなに気持ち良かったっけ・・・
なんて思って、
誰にも見られてないのに思わず、手の甲で顔を隠した。
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