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第97話 那津

「今日は?なに」 「オムライス」 キッチンでキスをして、 ともちゃんに後ろからギュっとされながらメニューを聞かれるのも いつものことだ。 「ん~うまそう」 そして、この言葉も毎朝。 おまけにこのあと続く言葉も・・・ 「那津が」「オレが」 「でしょっもぅ・・・」 もう本当に毎朝、飽きもせずそう言って笑う。 ともちゃんと・・・オレも。 首筋にともちゃんの唇がくっつく。 その唇は柔らかくてアツくて、オレは毎朝、一瞬だけ確実に、 クラリとしてはぁっと息を漏らす。 それも相変わらず毎日なのだ。 ともちゃんの両手がエプロンのナカに滑り込むと、 Tシャツの上から胸元を上下に撫でた。 「っちょ・・ともちゃ・・」 「今日は休みで明日も休み」 「っだからなんだよ」 「だからいいじゃん」 休日の朝。 なんだか鮮やかな光の溢れる朝っぱらのキッチンで。 ともちゃんは今日も、オレを好きだと言ってオレの身体を撫でて おそらくきっと・・・ オレの着ている服を中途半端に脱がせるのだろう。 さらにはともちゃんもソコだけ晒してきっと・・・ 「・・だめだよともちゃ」 「、、、お前なんでいまだにダメとか言うの?」 「っだ・・って・・・」 ・・・だって。 恥ずかしいし・・・イケナイコトだって思うしそれに・・・ 「こんなの・・・不健全だ」 なんて、そんな言葉を自分が言ったことに信じられなくて、 独りで呆れた。 「終わってる・・・」 「ん?なにが?これからだぞ」 呑気なともちゃんは言いながら、 オレの短パンの上から相変わらずそんな場所を撫でている。 自分でもよくわからない。 とにかくいまだに恥ずかしい。 慣れない。 ともちゃんの手のひらに。 指先に。 唇に。 言われる言葉のぜんぶに。 オレはドキドキバクバクしてしまう。 いまだにまるでついさっき、はじめて触られたみたいになって、 はじめて言われたみたいになって、 カラダもココロもきゅんとしちゃうのだ。 きっと、オレみたいのがともちゃんみたいなヒトに出会っちゃったらもう、 それだけでダメなんだ。 だってこのヒトは本当なら、交わる人じゃない世界のヒトだった。 すべてに中途半端ですべてがおかしなオレみたいなのは、 本当はともちゃんにはふさわしくはないって気持ちがいまだに消えない。 オレはなにも持ってない。 なによりオレは男なのだ。 それでも毎朝・・・毎日・・・毎晩。 抱きしめられながら好きだ好きだ言われて、 キレイなアツい手のひらで肌を撫でられちゃったらオレだって勘違いする。 オレみたいなのでも、 こんなイケメンと幸せになっちゃってもいいのかなって そんなことを思ってしまう。 「那津。こっち向け」 「ん・・・っ・・」 そうして、こんな場所でキスをして、 ともちゃんに買ってもらったエプロンごと抱きしめられてしまったら、 ぐちぐち考えてたぜんぶを忘れて、ともちゃんだけが世界に残る。 「はぁ・・っ・・」 「気持ちよさそうなカオすんね」 「っ・・・」 いったい自分は、どんなカオをしてんだろう・・・ こういう恥ずかしいことを、 いまだにともちゃんはさらりと言ってのけて、 だからやっぱりオレは独りオロオロするのだ。 「那津のそのカオすげー好き」 そのくせ、このヒトに『好き』と言われるたび、 オレは完璧に舞い上がってしまう。 幸せになってしまう。 間近で顔を突き合わせて視線を交わすと、 ともちゃんの目はいつだって真っすぐオレを見る。 男の・・・自分を。 そうして、ともちゃんも幸せそうな顔をするのだ。 「・・・だって」 「だって?なに」 「だって・・・大好きなヒトとキスしてるんだもん」 だからどうしたって本音を言うしかない。 この男に出会えて、こうして触れてもらえることはオレの世界の全てだ。 「それ、すげー気分いいね」 いろいろ、考えることはある。 だってともちゃんは本当は、女のヒトを好きになれるヒトだから。 でも・・・ 「ともちゃんはヤラしい顔してる」 「へぇ、、、この顔好き?」 もう始まってしまった。 「・・・まぁね」 「なんだそれ。素直に言え」 「素直に言ってるよ」 オレはこのヒトに、自分から手を伸ばしてしまったから・・・ だからきっともういい。 もういらない。 ぜんぶを手離していい。 このヒト以外のぜんぶを。 オレはこのヒトと一緒にもっと先に進んでみたいから。 「今朝は冷えるね」 「ああ。だからあったまろ」 「もう・・・ともちゃんはホント・・・」 「なんだよ」 ふふふっと笑う。 その先の言葉をつづける前に、オレは自分からキスをした。

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