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第96話 那津

「言え」 ああもう・・・なんというかずぶずぶだ。 このヒトといると自分はホント、ずぶずぶになっちゃう。 ともちゃんから出てる、なにか見えないでっかいモノに たっぷりどっぷり浸かり込んでしまって、もう・・・抜け出せない。 でもそれは・・・ 「・・・わかった。言いますっ言えばいいんでしょっ」 ともちゃんの身体に捕まると 「ココに・・・ともちゃんのそばにいる」 ドキドキしながらそう言った。 「もう・・・ゃだ」 きっとともちゃんのせいだ。 「なにがイヤなんだ?」 「知らないからなっ」 「だからなにが?」 その見えないモノに浸るのはあまりに気持ちがいい。 気持ち良すぎて怖いんだ。 けれどもう・・・抜け出せるような状態じゃない。 顔を上げると、さっきより近くにその顔があって オレはやっぱりドキリとする。 「ともちゃんこそ、オレをナイガシロにするなよ」 「お。難しい言葉知ってんじゃん」 からかわれてる。 完ぺきに。 もうムカつく。 ムカついているのに・・・ それすらも気持ちがいいなんて。 なんだかやられっぱなしが気に入らなくて、 自分からともちゃんの唇を奪ってやった。 するとその瞬間、頭をホールドされて 否応なしにともちゃんの舌が入ってくる。 「っんん・・っ・・・んーーーっ・・・・」 唇を塞がれて、ナカで舌が絡み合う。 ともちゃんに全身を包まれながら、バタバタと手足を動かした。 けれどそれはまったく本気なんかじゃななくて・・・ 本当は、そんな強引なともちゃんにさらに身体はドクドクっと、 とても嬉しそうに、気持ちよさそうに、音を立てている。 「はぁっ・・・っ・・」 「蔑ろになんてするわけない。お前はまだわかってないのか」 「っわかった・・っ・・もうよくわかったよ・・っ」 このままだと本当に第なにラウンドになるのかわからない、 次がはじまってしそうで怖すぎる。 「今日は買い出し行くんだからなっ」 「わかってるよ」 「もう起きるっ」 「一緒にシャワー、、」 「浴びないっ」 慌ててともちゃんから離れてベッドから這い出る。 そうでもしないと、溺れそうなのは実は自分なのだ。 ドアノブに手をかけてちょっとだけ考えると、 くるりとともちゃんの方を向く。 真っ裸で、 大股で歩いてベッドまで行くと、 ともちゃんのほっぺを両手で挟んでこっちを向かせた。 ほっぺがつぶれてどこか幼くなるともちゃんに ・・・それでも不細工にならないってどういうことだよ・・・ って思いながらオレはちゅっと・・・ 今度こそその唇を奪ってやった。 ーーー・・・ 早朝の肌寒い空気の中。 エコバックを1つ下げながら、 マンションの入り口でちょっとだけ立ち止まった。 そこはどうしたって懐かしんでしまう場所。 視界に入るのとほとんど自動的に、 そこにすわって見上げた夜空を思い出してしまう場所だ。 見上げた空は暗かったなと思い出す。 あれからもうすぐ1年がたつ。 あの日、ともちゃんに借りたベージュのコートを着て、 なんだかくすぐったい空気を感じる。 きっともうすぐ、春が終わる。 「おはよ~ともちゃん」 「おはよ」 リビングのドアが開いて、ぼさぼさの頭のともちゃんが現れるのを オレは今日もキッチンで迎える。 そうして、フライパンを・・・ ときにはおたまを、さい箸を、にんじんやきゅうりやお皿を・・・ 持ってるオレのとこまでともちゃんが歩いてくると、 ともちゃんは後ろからぎゅっとしてオレにキスをする。 それはもういまだに毎朝。 それがルーティーンになってしまっている。 「出かけた?」 「ん。卵買いに」 「そっか」 会話をしている最中、 ともちゃんはオレの頭にちゅっちゅっとしている。

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