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第28話遠くて近い未来のお話
気がついたとき、ボロボロになった魔道書の俺を抱いてアークが泣いていた。
「ユウ・・」
ああ。
俺は、薄れていく意識の中で呟いた。
アーク、俺は、ここにいるよ。
アーク。
俺は、ずっと、ずっと、あんたの側にいる。
ずっと。
「しかし、どうなんですかね」
茶髪に青い目をしたチャラそうな兄ちゃんが呆れたように言った。
「神になれるというのに、それを断ってもとの魔道書に戻りたいって」
俺は、暗闇の中にいた。
「もう、好きなようにしてください!」
チャラ兄ちゃんが叫んだ。
「それで、うんと幸せになっちゃえばいいんだ!」
暗闇の中に小さな光があった。
その光は、だんだんと大きくなっていって、やがて、俺を、世界を包み込んでいった。
この世界。
小さくて、広くって、不完全な、この世界。
「いつか、お前は、今日のこの決断を後悔する日がくるのかもしれない」
どこかの世界の、どこかの場所で、その男は、俺に言った。
「だが、私は、お前のその決断を誇りに思うよ、ヨシュア、いや、ユウ」
幸せにおなり。
どこかで誰かが言った。
どうか、幸せに。
ぽとり。
俺の頬に水滴が落ちてきた。
ぽとり、ぽとり。
それは、とてもあたたかいもので。
俺は、多幸感の内に微笑みながら目を開いた。
黒髪に深い緑の瞳の端正な顔立ちの男が目の前で泣いていた。
俺は、この男を知っている。
「・・アーク・・」
「ユウ・・?」
俺は、アークの腕の中で笑いながら泣いていた。
俺たちは、抱き合って笑い、泣いた。
それから、一年の月日が流れた。
俺は、ユウレスカ・ホソカーとして正式にアークの元へと嫁いだ。
そして。
今日。
一人の赤ん坊がこの世に生を受けた。
赤ん坊の名前は、ラーナ・ダンクール。
俺たちに似て黒い髪の可愛らしい女の子だ。
『R』シリーズの兄弟たちも、それぞれの子供たちをつれて祝福に駆けつけてくれた。
ディアン王子とその妻となったティルとその娘たち。
レイブンとコウとその息子たち。
そして。
『Rー7』ロイドと8才になったばかりのロキシス王。
俺には、未来を予知する能力はないけれど。
いつか、ロキシス王とラーナが、あの青い花の中で出会う日がくるような予感がしていた。
俺は、にっこり微笑みを浮かべて、ラーナを抱いていた。
それは、また、別の話。
遠くて近い、未来のお話。
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