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第27話リミッターを外しますか?

ある日、クーナの山城を見知らぬ老人が訪れた。 そのボロボロの服とローブをまとった老人は、アークの名を出して言った。 「大変なことが起きようとしている」 最初、城の門番は、老人を追い払おうとしたらしい。しかし、老人は、諦めなかった。 3日後、王都から戻ったアークが馬で通りかかった時も、その老人は、門の前で待っていた。 老人を見たアークは、すぐさま馬から降りて老人に駆け寄った。 「オーガント卿ではないですか 」 ちなみに。 アウリスト・オーガント卿とは、かつて、アストラル王国において魔導師団長をつとめていた魔導師であり、アークの師でもあった人らしい。 今では、引退し、賢者と呼ばれ、アストラル王国の外れの山奥に隠遁していた。 「その人がなんで、こんなとこに訪ねてきたわけ?」 俺は、アークにきいた。アークは、頭を振った。 「わからない」 アークは、オーガント卿からノミがジャンプするのを目撃し、そそくさと彼を風呂へと案内した。 だから、今、彼は、入浴中なのだった。 でも。 俺は、くすっと笑った。 アークの修行時代の話とかきけるかも。 数十分後。 こざっぱりとしたハチミツ色の金髪をなびかせた美老人がアークのシャツとズボンを身に付けて現れた。 マジか。 とても、同一人物とは思えない。 「アークよ。お前の悪いところは、たくさんあるが、その内の一つに人の話をきちんと聞かないというものがある」 オーガント卿は、静かに怒りながら言った。 「私は、ここまでわざわざ風呂に入るために来たのではないんだぞ」 「わかっています。オーガント卿」 アークは、へりくだった態度でオーガント卿に応じた。 「それで、今日は、いったいなんのご用でしょうか?」 「1ヶ月ほど前に、予知夢を見た」 オーガント卿は、話し出した。 「その夢の中で王都アルサイルに巨大な隕石が堕ち、都が壊滅状態になった」 「それは」 アークが息を飲む。 「本当ですか?オーガント卿」 「こんな冗談を言うために、わざわざ、できの悪い弟子のところに来たりはせん」 オーガント卿は、言った。 「なんとかせんと、甚大な被害が王国を襲うことになる」 「しかし、いくらオーガント卿の言葉でも、夢では」 アークが言いかけたのを俺が遮った。 「その人の言ってることは、本当だよ、アーク」 「ユウ?」 サーチの魔法を宇宙空間まで拡げて見たところ、本当に、隕石がこの星へと向かっていた。 しかも、もう、かなり近い。 「もう、1、2日中には、堕ちてくるよ」 「マジか?」 青ざめるアークに、オーガント卿は、きいた。 「この少年は、何者なのかね?」 「ユウは、俺の伴侶で、実は、『Rー15』という魔導書なんです」 アークの返事をきいたオーガント卿は、じっと俺のことを見つめた。 「何にせよ、アークよ。お前は、本当にできの悪い弟子だったが、運だけはいいようだな」 「はい?」 アークが問いかける。 「どういうことです?」 「つまり」 オーガント卿は、アークに答えた。 「この少年が本当に『Rー15』という魔道書なのだとすれば、隕石から王都を守ることも可能であるだろうということだ」 うん。 俺は、否定も肯定もせずにオーガント卿の話をきいていた。 たぶん、俺は、隕石から街を守ることができる。 だけど、そのためには・・・ アークが俺にきいた。 「ユウ、できるのか?」 「うん・・」 俺は、答えた。 「たぶん、リミッターを外せば、いけると思う」 「なんだって?」 アークが深刻な表情になった。 「リミッターを?」 「どういうことかね?」 オーガント卿にきかれて、アークが説明した。 「ユウには、『Rー15』には、リミッターがかけられているんです。そして、リミッターを外すと、魔道書の力は、解放されますが、その魔道書の持つ性質、つまり、魂が破壊されかねないのです」 だから、コウは、レイブンがリミッターを外すことを恐れていた。 俺は。 過去にエドランによって世界を滅ぼしかけたことがあるが、エドランは、俺のリミッターについては、まったく知らなかったらしい。 だから、俺は、まだ、リミッターを外したことがないわけだった。 リミッターを外せるのは、魔道書に登録された持ち主だけだ。 俺の場合、アークだけだった。 「しかし、悩んでいる場合ではないぞ、アーク」 オーガント卿は、言った。 「一冊の魔道書と引き換えにすることはできない」 「しかし、ユウは」 「俺、やるよ」 俺は、アークに言った。 「リミッター外してよ、アーク」 「ユウ・・」 「大丈夫」 俺は、にっこりと笑った。 「心配しないで、アーク」 翌日の朝。 俺は、アークと共にこの星の遥か上空へと向かった。 成層圏ぎりぎりのところで、俺たちは、隕石に対峙した。 けど。 アークは、まだ、躊躇していた。 だから。 俺は、アークの手を握って言った。 「アーク。リミッターを外して」 「ユウ・・」 アークは、俺のリミッターを外した。 世界が。 拡張されていくのを俺は、感じていた。 拡がっていく。 俺の意識が。 魂が。 どんどん拡がっていく。 俺は、俺がまだ、俺である内に、俺の持つ最大の魔法で隕石を打った。 光の束が隕石を破壊し、世界中へと飛び散っていく。 ああ。 俺は、本へと意識が収縮していくのを感じていた。 アークの泣きそうな顔が見えた。 バカだな。 俺は、にっこりと微笑みを浮かべてアークの頬に触れた。 泣かないで。 俺は、多幸感に包まれて、そして、消えていった。 「・・ユウ・・細川 ユウさん・・」 「何?」 俺は、幸せな夢から目覚めた様な気持ちだった。 「あんた、誰?」 「お忘れですか?」 茶髪で青い目をしたチャラそうな兄ちゃんが俺を覗き込んでいた。 「あなたは、本に転生しておられたのですが、覚えておられますか?」 「あっ・・」 俺は、だんだんと記憶が蘇ってくるのを感じた。 「そうだ、俺、隕石を破壊するためにリミッターを外して・・」 俺は、慌てて兄ちゃんにきいた。 「世界は?隕石は、どうなった?」 「大丈夫です」 兄ちゃんは、答えた。 「あなたは、無事に世界を救いました」 俺は、ホッとして安堵の吐息を漏らした後で、兄ちゃんにきいた。 「俺、どうなったの?」 「あなたは」 兄ちゃんは、一瞬、暗い表情になって俺に言った。 「魔道書としては、その魂を失われました」 「ええっ?」 「ようするに、お亡くなりになったのです」 マジか? 呆然としている俺に、兄ちゃんは、言った。 「その代わりと言ってはなんですが、あなたは、この度、神となられることが決まりました」 「何?」 俺は、兄ちゃんにきいた。 「どういうこと?」 「つまり、『Rー15』であるあなたは、その力で世界を救った功績により、神になられることになったのです」 兄ちゃんが嬉しそうに言うので、俺は、兄ちゃんの胸元を掴んで言った。 「いい加減にしろよ!俺は、神になんかなりたくなんかない!」 「なら、どうしたいんです?」 「俺は」 俺は、答えた。 「アークの側で、アークと共に生きたいんだ!」

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