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その行為は、この二年間何度となく繰り返された。誕生日、クリスマス、正月──石蕗家に呼び出される度に。あの十三歳の誕生日に心を引き裂かれた秋穂は、それ以降心を閉じ込め、ただ嵐が過ぎ去るのを待つようになった。
でも。それでも。その心の奥で血を流しているであろうことを思い、冬馬は彼に言うのだ──誕生日おめでとう、アキ。メリークリスマス、アキ──と、辛い記憶を塗り替えるように。
冷たい雨の中を数分待つと、静かな足音が聞こえてきた。頭を上げると、雨に濡れて秋穂が儚く微笑んでいた。
「お前は……また濡れて……。馬鹿だなぁ……」
傘を傾け秋穂を入れる。二年経って少し大人びた綺麗な顔を覗き込む。
「アキ……誕生日、おめでとう」
低く優しく囁く。
「うん……ありがとう」
くすぐったそうに微笑った。
バスルームを借りて身体を温める。湯の中の、白いはずのその肌は、強く擦られて真っ赤になっていた。バスルームに入るとすぐに秋穂は、その凌辱の痕を消すように強く擦り始めた。自分自身が汚れたものであるかのように。
湯から上がると、自分に用意されたパジャマに着替え、真っ直ぐに冬馬の部屋に向かった。冬馬は自分のベッドに寝転んでいたが、ドアの開く音で起き上がる。
サイドテーブルにはホットミルクが用意されている。
「ちゃんと温まってきた?」
「うん」
ホットミルクの入ったカップを手に取ると、秋穂もベッドに上がって彼の隣に座った。
「お前、ちゃんと頭拭けよ」
髪から落ちる水滴を見て、ヘッドボードに放ってあった自分のタオルで秋穂の頭を拭き始めた。
二年間繰り返された行動、会話。
そして、ふたりは互いの温もりを分け合いながら眠る。時には幼い子どものように素肌のまま。この年齢 の男ふたりがそんな触れ合いをするのは、傍 から見れば可笑しなことかも知れない。しかし、これは秋穂の心を救うために必要で自然な行為だった。
──秋穂の心を救うため……?いや、冬馬自身の心をも救うためか。現実には助けられない罪悪感や焦燥感から。
──俺は無力だ──
詩雨の指摘通り、二年前の“あの日”の後幾つかの武道場に通い始めたのも、たんなる自己満足に過ぎないのだ。
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