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4 ☆

 季節は巡る──秋穂と出逢って、四度目の夏。  八月に入り二週間程、冬馬が秋穂を連れ橘家所有の別荘で過ごすのは、中一の夏から毎年のことだ。今年はそれに詩雨が加わった。広大な森の中にある、別荘というには大きすぎる屋敷には今彼ら以外誰もいない。  ふたりは、沼の畔で静かな時間(とき)を過ごしていた。  木に凭れかかって本を読んでいる秋穂の横顔は、また大人びた。それでいて、まだ大人になりきれない危うい儚さもあった。  そんな秋穂の腿に頭を載せ、冬馬は長い足を投げだしている。彫刻のように整った顔は、穏やかに眼を伏せたまま。 (いつもと変わらないまま。あの秘密基地にいる時と一緒だ)  初等科の頃、冬馬と詩雨で決めた秘密基地。長くふたりだけのものだったが、中等部になって秋穂を受け入れた。いや、むしろ、その頃は余り登校できていなかった詩雨よりも、あとから加わった秋穂の方が一緒にいたくらいだ。  高等部に進級するのを機に、詩雨はカンナ音楽院から聖愛学園に籍を移した。それからは三人で過ごすことが多くなった。  しかし、美しい絵画のようなふたりの間には入っていくことはできない。ただファインダー越しに眺めるだけだった。  ちりりと胸が痛む。そんな思いを振り切るように天を仰ぐ。どんよりとした曇天。陽に透けると金色に煌めく髪は、今は少し明るめのブラウン。 (さっきまで晴れてたのに……。オレの心みてぇ)  空を見上げていたのはほんの一瞬のように思えたが、実際はもう少し長くぼんやりとしていたらしい。大粒の雫が、叩きつけるように顔を濡らしていることに、はっと気づく。 「詩雨!何やってるんだ、早く戻るぞ」  離れたところにいたはずの男の声が、すぐ近くで聞こえた。 「ああっ。ったく、これだから山の天気はっ」  突然の激しい雨は、屋敷に急ぐ三人の身体を、あっという間にずぶ濡れにした。

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