31 / 38
12 ☆☆
冬馬は片腕で秋穂を支え、空いた手でその身体を愛し始める。首筋から胸、腹、そしてその下まで手を伸ばした。薄手のデニムパンツの上からそこに触れると、自分と同じくらい昂っているのが、布越しでもはっきり分かった。前を寛げ直にその熱に触れ、やんわりと握り込む。
「あ……っ」
今までになく高い声が上がり、それに煽られたように手を動かし始めた。
(もっと……もっと声を聞かせてくれ)
既に潤み始め滑りの良くなった昂りを、緩急つけながら扱いてやる。そうしながら、眼の前にある胸に舌を這わせた。白い肌にある紅く色づいた果実を口に含み、甘噛みする。
限界はすぐにやってきた。
「ん……冬馬っ、もうっ」
羞恥を含んだ消え入りそうな声で訴えかけられる。
「いいよ、イっても」
耳許で甘く囁いてから、舌で耳を嬲る。
同時に昂りを強く扱いてやると、白濁が勢いよく飛び出し、冬馬の手や腹部を濡らした。
秋穂は脱力して冬馬に凭れかかり、耳許で熱い吐息を漏らす。
「僕も……」
冬馬のスラックスに手を伸ばし、急かされるように前を寛げ、直に昂りに触れる。
(熱い……)
柔らかく握り、ゆるゆると手を動かす。
「ふっ……」
吐息が髪を掠める。上目遣いに見遣ると、眉間に皺を寄せ、何かを耐えるように眼を伏せていた。
僕に感じて、こんな風になっているんだ──そう思うと、ぞくぞくっと背筋に何かが駆け登っていく。
「冬馬……」
耳朶を甘噛みするような淫らな囁きと、それに相反するぎこちない指の動き。そのアンバランスさは扇情的で、余り長くは保てなかった。ぶるっと身体を震わせて、その熱を放った。
冬馬は閉じていた眼をゆっくりと開いた。欲を帯びた雄の瞳。その瞳に見つめられるだけで、秋穂は中心に再び熱が溜まっていくのを感じた。
互いの迸りでぬるりとした指先が、更に秋穂の奥へと踏み込んでいく。閉じられた場所の周りを撫でた後、長い指を一本差し入れる。
「あ……ん……」
秋穂の唇から再び喘ぎ声が漏れ始める。しかし、冬馬の指は入り口付近に留まったまま、躊躇していた。
(思ったよりも……キツイな)
何度も経験しているなら、正直、もう少し楽に入ると思っていた。
(事故の後、今日まで彼奴は来ていなかったのかも知れない)
ゆっくりと指を動かしてはいるが、一向に進まないことに気づき、秋穂は小さく「冬馬?」と声をかける。
「傷つけたくない」
彼はそう答えた。
冬馬が自分に優しいのも、甘いのも解っている。でも、けして手に入らないと思っていたものが、手の届きそうなところにあるのだ、黙って委ねているだけでは、だめだ。
(どうしても、欲しい)
「平気だよ。傷ついても、平気」
秋穂は片手を伸ばし、チェストの引き出しを開けて中を示した。促されるまま、冬馬がそこを探る。
ローションとゴム。
いったい誰と使っていたのか。この部屋は元は夫婦の寝室であったが、子どもが産まれて以来別々に寝ていると言っていた。元々夫婦の間には、そういった行為は余りなかったようだ。
(たぶん、彼奴との時に──)
「まったく、どれだけ煽る気だっ」
低く言い放つ。抱えていた秋穂を軽く突飛ばし、柔らかなベッドに沈める。
ローションを自分の手に、だらだらと流した。流れ出た液体は、冬馬の手から零れ落ち、その下に横たわる秋穂の肌をも濡らした。
もう、どれくらい経ったかわからない──永遠に続くかと思われるその行為に、喘ぐことすらできないくらい、ぐずぐずに溶かされていた。
冬馬は、その秘められた場所を、ただひたすら指で慣らし続けている。口づけをし、舌を搦め捕り、肌を撫でながら。
今までこんなに丁寧に慣らされたことはなかった。壱也はいつも、たいして慣らすこともなく挿入し、ただ激しく揺さぶるだけだった。
(もう……溶けてしまいそうだ……)
背筋をざわざわ這い回る甘い痺れに、意識が朦朧としてくる。肉体 の芯は熱を持ち、再び限界を迎えそうだ。
それは冬馬も同じだった。一度精を放った後の彼のそれは、秋穂を愛撫している間に再び頭をもたげ、もうすっかり勃ち上がっている。
不意に、冬馬が秋穂の上に倒れ込んでくる。骨張った二本の指はまだ、秋穂の内に入ったままだ。女とは違うそこを、いったいどれだけ慣らせばいいのか考えあぐね、苦しげに息をつく。
「アキ……」
掠れた声が吐息と共に、秋穂の耳をくすぐる。
「も……挿れても、い……?」
その切ない響きに、どくんと更に血が沸き立つ。声を出すことすらできず、顔を微かに動かして応えた。安堵の色を滲ませた息が耳許を掠める。そう感じた途端、指を抜かれ、別な何かがあてがわれた。
冬馬は熱く昂った己の欲望を、今まで慣らし続けたそこに、ゆっくりと侵入させていった。慣らしてもやはりそこは狭く、頭を入れただけで熱く絡みついてくるようで、全身が総毛立つような興奮を感じた。
く……っと歯を喰いしばり耐えたが我慢できず、
「アキ、ごめんっ」
そう低く呟くと、一気に突き上げた。
「ああっっ」
全身を駆け巡るような衝撃に、秋穂の唇から甲高い声が上がる。それと同時に熱い迸りが、ふたりの身体を濡らした。
冬馬は構わず、秋穂を揺さぶった。達した後の肉体に、その動きは刺激が強すぎたのか、秋穂は激しく喘いだ。
ほどなくして冬馬も限界を感じ、名残惜しく思いながらも、秋穂の内から離れていく。その刹那低い呻きと共に放たれた熱は、無数の紅い花びらが散る白い肌を、しとどに濡らした。
ともだちにシェアしよう!