1 / 3

第1話

 その日、(じゅん)は恋人の家に行った。お金を貸してほしいと言われ、届けに行ったのだ。  恋人の大地(だいち)には、バイトの帰りに家に寄ると伝えていた。夜、遅い時間に着く予定だった。  けれど、バイトの時間がずれた。バイト仲間に頼まれシフトをかわったのだ。  だから、予定よりも早く恋人の家に向かうことになった。連絡を入れたが、返事はない。出掛けていて、淳からの連絡に気づいていないのかもしれない。  出掛けているのなら、お金だけ家に置いていけばいい。そう判断して、淳は合鍵を使って恋人の家に入った。  すると玄関に靴が置いてあった。大地のものと、女物の靴が。  淳はその靴を凝視する。  頭が真っ白になって、殆ど無意識に部屋に上がる。  声が聞こえてきた。寝室からだ。  淳は寝室に近づく。  中は覗けなかった。ドアの向こうから、聞こえてくる声が耳に届く。  大地の声と、女性の喘ぎ声。  淳はその場に縫い付けられたかのように動けなくなった。  やがて喘ぎ声は会話に変わった。 「ねえ、今日恋人来るんでしょ? あたし、そろそろ帰った方がいい?」 「あー、大丈夫。あいつのバイトまだ終わんないし」 「酷いよねー。恋人にお金稼がせて、自分は浮気なんて」 「ははっ。男と本気で付き合うとか、ありえねーだろ」 「でも、結構付き合い長いんでしょ?」 「まー、二年……くらいか?」 「マジで? 二年も騙してんの? てかその恋人騙されすぎじゃない?」 「あいつ俺にベタ惚れだからな。俺の傍にいれるだけで幸せなんだよ」 「サイテー」  キャラキャラと笑い声が響く。 「恋人のポジションはちゃんと与えてやってんだから、その分は尽くしてもらわねーとな」 「恋人って言ってるだけで、実際は都合よく使ってるだけなんでしょー? バレたらさすがに刺されるんじゃない?」 「あいつにそんな度胸ねーって」  その通りだった。刺すどころか寝室に乗り込んで殴って罵倒することもできず、入ってきたときと同様、足音も立てずに玄関へ戻った。部屋を出て、そっとドアを閉める。静かに鍵をかけ、使い終わった鍵をポストに入れた。もう二度と使うつもりはなかったから。  淳は足早にその場から離れた。  ショックが大きすぎて、ただ闇雲に足を進めた。  街灯に照らされる道を歩きながら、大地と過ごした日々を思い出す。  彼とは高校で出会った。カッコよくて気さくな人柄で、とてもモテていた。淳はそんな彼に密かに憧れていて、けれどそれを伝える勇気はなかった。だから、卒業間近のある日、突然大地に「お前って俺のこと好きだよな?」って言われたときは驚きに声も出せなかった。隠していた気持ちがバレていた。動揺して逃げ出そうとする淳を捕まえ、大地は言ったのだ。 「俺と付き合わないか?」  淳の気持ちに気づいて、淳を意識するようになった。淳のことが気になりはじめた。卒業すれば、会えなくなる。もっと淳のことが知りたい。だから、卒業前に思いきって告白したのだと、大地は照れたように言った。  淳は舞い上がり、彼の告白を受け入れた。  自分の気持ちなんて、バレたら絶対に気持ち悪いと思われる。嫌われる。  そう思っていたのに、まさか大地の方から告白してくれるなんて、想像すらしていなかった。  そうして淳は大地の恋人になった。  淳は大学へ進学し、大地はフリーターに。高校卒業と同時に二人はそれぞれ独り暮らしをはじめた。淳はしょっちゅう大地の家へ遊びに行った。  大地と付き合いはじめてから今日に至るまで、おかしいと感じなかったわけではない。  いつしか食事を作る為だけに家に呼ばれたり、バイト行ってる間に食事用意しておいてと言われたり、その食材は全部淳が買ってきたものだけれど、そのことについて大地がなにか言ったこともない。それどころか、お金を貸してほしいと頼まれるようになった。最初は色々と理由を言っていたけれど、今では理由も言わずただ貸してと言われる。淳は週に二、三日のバイトしかしていなかったが、それではお金が足りなくて、シフトを増やした。淳は大地に貸すためにあくせく働き、そしてそのお金が返ってきたことはなかった。  それだけでも充分おかしいのだが、付き合いはじめて約二年、淳は大地とキスもセックスもしたことがない。自分からしてほしいなんて言うことはできなかった。大地はゲイではない。淳が性的接触を望めば彼を困らせてしまうと思った。大地は淳の体は求めていない。それはわかっていた。  けれど、肉体的な繋がりはなくても、淳は大地を恋人だと思っていた。大地は淳を抱き締めて、好きだと言ってくれた。淳が照れれば可愛いと言ってくれた。  だから、精神的にはちゃんと繋がれているのだと思っていたのだ。  おかしいと感じても、淳はそれを口にしなかった。  好きだと言ってくれた大地の言葉を信じたかったから。大地は淳を恋人だと思ってくれていると、そう信じたかったのだ。  今日のことがなければ、淳はいつまでも彼を信じ続けただろう。  淳とそういうことをしていないのだから、当然大地は女性を抱いているのだろうとは思っていた。けれどそれはあくまで性欲処理の為で、淳のことを好きな気持ちに嘘はないと、そう信じていた。  けれど違ったのだ。彼は淳のことなど好きではなかった。ただ都合よく淳を利用していただけ。そのために、淳を恋人にしたのだ。  不意に涙が零れ落ち、淳はひたすら動かしていた足を止めた。その場にしゃがみ込み、顔をぐしゃぐしゃにして泣いた。  ひくひくとしゃくり上げながら、スマホを取り出す。  大地に、別れを告げるために。まともに話せないので、メッセージで伝えることにする。「大地とは別れる。もう会わない。」そう打ち込もうとしたとき、間近から声をかけられた。 「ねぇ、君」  涙でぐちゃぐちゃの顔を上げると、目を瞠るほどの美形がそこに立っていた。大地もカッコよくて彼を近くで見てきた淳はイケメンに耐性があるのだが、大地とは格が違う。  淳は呆然とその美貌の青年を見つめた。 「大丈夫?」 「えっ、あっ、はいっ……」  心配そうに尋ねられ、淳はごしごしと涙を拭って立ち上がった。  ここが外であることを思い出す。大地への連絡も、泣くのも、家に帰ってからの方がいい。  青年はじっと淳を見ている。  緊張しつつ、淳はとりあえずへらりと笑顔を浮かべて首を傾げた。 「えっと、なにか……?」 「君、いくら?」  言われたことの意味がわからず、淳は返事ができなかった。 「え、えっとぉ……」  狼狽え、視線をさ迷わせてぎょっとした。あちこちで、男と男が絡み合っている。周囲に流れる淫靡な空気に今更気づいた。  そして、青年に言われたことの意味を理解する。  淳は男娼と勘違いされているのだ。どうやらこの路地は、男が男を買う、そういうスポットなのだろう。淳は気づかずにそんな場所をうろついていたのだ。  いや、でもそれはおかしい。こんな美形がお金を払ってまで淳を抱こうとするわけがない。淳は至って平凡な容姿をしている。彼の美貌なら、男でも女でも、もっと綺麗な相手も選びたい放題だろう。わざわざ淳を選ぶはずがない。  つまり、「いくら」というのは、「いくら払えるか」を訊いたのだ。  お金を払えば、この青年に抱いてもらえるということだ。  恋人でもない相手とセックスをするのに抵抗のある淳は断ろうとした。  しかし、思いとどまる。  この先、恋人を作れるとは思えなかった。恋人と思っていた相手からの手酷い仕打ち。もう、淳には誰かを信じるということが難しい。こんな状態で新しく好きな人ができるとも思えない。そうなると、淳は一生誰ともセックスができない。それならば。これが最初で最後のチャンスなのかもしれない。どうせなら、こんな綺麗な青年に抱かれてみてもいいのではないか。はじめてを大事にとっておく必要などないのだから。  大地に裏切られたショックで、多少自棄になっていた。その自覚はあったが、淳はそれでも覚悟を決めた。 「あの、六万、でも、大丈夫ですか……?」  それは大地に貸そうとしていたお金だ。相場がわからなかったので、咄嗟にその金額を口にしていた。  足りないだろうか。なにせ相手はこんな美形なのだ。  不安に思ったが、青年は笑顔で頷いた。 「うん、大丈夫だよ」  淳はほっと胸を撫で下ろす。 「じゃあ、行こうか」  青年は自然な動作で淳の肩を抱き、歩き出した。  ホテルに着くまでの間に互いに名乗り、青年の名前が一成(いっせい)だということを教えてもらった。  一成が選んだ部屋は、広くて豪華で、ただセックスをするためだけに泊まるとは思えないほど立派だった。  部屋に入ってから、淳はハッとする。  よく考えたら、未経験では駄目なのではないか。恐らく彼は、それなりに経験があると判断して淳に声をかけてきたのだろう。  部屋に入ってしまってから、淳はそのことに気づいた。このまま黙っていようかという考えが頭を過るが、騙しきれる自信がなかった。きっと絶対バレてしまう。 「淳? どうしたの?」  入り口で立ち尽くす淳に、一成が首を傾げる。 「あっ、あの、俺……っ」 「うん?」  近づいてきた一成が、淳の頭を撫でる。  甘い仕草にどぎまぎしながら、淳は正直に事実を伝えた。 「俺、はじめてなんです……」 「なにが?」 「えっ!? えっと、その、したことなくて……あの、あれ……」 「うん」  一成は急かすことなく続きを待っている。はっきり言わなければわかってもらえない。  淳は顔を真っ赤にしながら、上擦る声で告げた。 「せせっ、せっくす! したことないんです!」 「…………え?」 「あのっ、俺、はじめてで……っ」 「え? ほんとに?」 「はい……」  一成は呆然としている。やはり未経験だとは思われていなかったようだ。 「あの、やっぱり、ダメ、ですかね……?」 「え……?」 「経験ないと、ダメですか……?」 「そんなこと、ないけど……。ほんとに俺がはじめて?」 「はい」 「淳の方こそ、はじめての相手が俺でいいの?」 「えっ、も、もちろんっ」  つい力んで返事をすれば、一成は優しく目を細めた。 「そっか。嬉しいな。俺が淳のはじめての相手なんだ」  嬉しそうに口を綻ばせ、そんなことを言ってくれる。  もちろん淳は本気にはしていない。相手を喜ばせるようなことを言うのもサービスの一つなのだろう。  嘘でもそんな風に言われると恥ずかしくて、淳は頬を染めて俯いた。 「照れてるの、可愛い」  一成の手が、淳の頬を撫でる。 「可愛い」と、大地も何度も言ってくれた。抱き締めてくれた。  思い出したくないのに、大地のことが頭を過る。  ぼんやりしていた淳の唇に、なにかが触れた。ビックリして意識を戻せば、一成が淳にキスをしていた。  淳は更に驚き、目を丸くする。  唇を離した一成は、淳の顔を見て苦笑した。 「ごめん、キスは嫌だった?」 「えっ!? いえっ、そんな、全然っ」  動揺しながら、ぶんぶんと首を横に振る。  大地には一度もしてもらえなかったキス。  けれど一成は、当然のことのように淳にキスをした。 「ほんと? じゃあいっぱいしてもいい?」  指先で唇をなぞられ、ぞくりと背中が震えた。  嫌悪感ではない、ぞくぞくと肌が粟立つような感覚が全身を駆け巡る。 「は、ぃっ……」  うまく声が出せず、代わりに大きく頷いた。  一成は微笑み、再び唇を重ねる。  最初はそっと、啄むようなキスを繰り返され、徐々に深く濃厚なものへと変化していく。 「んぁっ……ふ……っ」  一成の舌が唇に触れ、淳は恐る恐る口を薄く開いた。  隙間から舌を差し込み、淳の反応を窺いながら口腔内を舐め回す。  ぬるぬると舌で口の中を掻き混ぜられ、慣れない感覚に戸惑いはあったが、決して不快ではなかった。寧ろ、粘膜の触れ合う感触が気持ちよくて、頭がぼうっとしてくる。 「ふぁっ、んっ、んっんっ、はっ……」  どうすればいいのかわからず、淳はされるがままだった。  混ざり合う唾液が口の中から溢れそうになり、喉を鳴らして飲み込む。  すると更に深く唇を重ねられ、激しく貪られた。動き回る舌に口内の隅々まで舐められ、引き出された舌を音を立てて吸われる。  恥ずかしさと戸惑いはキスの快感で霞んでいく。  思考はとろとろに溶かされ、体はぐずぐずになっていった。  唇が離される頃には、足が震えて支えてもらわなくては立っていられない状態になっていた。 「はあっ、はっ、んっ、はあっ……」 「ごめん。いきなりやり過ぎたね」 「だ、大丈夫、です……」  涙の滲む瞳で見上げれば、またちゅっと口づけられた。 「キスだけでとろとろになっちゃって、可愛い」 「んっ、む、んんっ」 「ああ、ごめん、また夢中になっちゃうところだった」 「はっ、はふっ……」  淳は慣れていなくて申し訳なく思った。経験者であればちゃんとキスに応えられたし、キスだけでいっぱいいっぱいになることもなかったのだろう。 「ベッドに行ってからにしよう」 「あっ、まっ、待って……っ」  寝室に連れていかれそうになり、淳は慌てて止めた。 「しゃ、しゃ、シャワー、浴びてきますっ」 「そのままでいいよ?」 「だっダメ、ダメですっ」  バイトの後、そのまままっすぐ大地の家へ向かったのだ。バイトが終わってから、まだ汗を流していない。 「ああ、汗、かいてるんでっ」 「そう? 気にならないけど」 「ひゃあっ、ダメっ、ダメっ」  首筋に顔を埋められ、舐め上げられ、淳は必死に抵抗した。 「お願い……っ」  涙目で懇願すると、一成の瞳に情欲が浮かぶ。 「じゃあ一緒に入ろうか。俺が体洗ってあげる」 「ええっ……!?」  にっこり笑った一成に、驚きで抵抗が遅れた淳はあっさり浴室に連れ込まれてしまった。  あっという間に全裸にされ、自身も衣服を脱ぎ捨てた一成にバスルームに入れられる。部屋と同様、浴室も広くて綺麗で豪華だった。 「ま、待っ、俺、一人で……っ」 「遠慮しないで、俺に任せて」 「遠慮、じゃなくてっ」  必死の訴えは聞いてもらえず、一成はボディソープを手に出して泡立て、直接触れてくる。 「んっ……」  ぬるりとした感触が肌を撫で、体が震えた。 「あっ、ダメっ、俺、自分で洗うから」 「俺に触られるの嫌?」  その聞き方はズルい。嫌だなんて言えない。実際、嫌だとは思わない。 「嫌、じゃない、けど……っ」 「じゃあ触らせて」 「んっ、んっ……」  淳はもう抵抗できなかった。  一成の手が、丁寧に、優しく体に触れてくる。擽ったいような、落ち着かないのに、けれど心地よい感触に淳は熱い吐息を漏らす。  一成は体の隅々まで洗ってくれた。けれど本当に洗うだけで、終わるとシャワーで泡をしっかりと流した。 「せっかくだし、一緒に入ろう」  一成に腕を引かれ、一緒に浴槽に入る。淳の体を洗っている間にお湯を溜めていたのだ。量はまだ少ないが、二人で入るには丁度よかった。  緊張でガチガチの淳を、一成が背後から抱き締める。  一成の微かな笑い声が耳を掠めた。 「そんなに緊張しないで」 「うっ……す、すみません……」 「ほんとに最後までして大丈夫? やっぱりやめておく?」 「や、やめないでっ」  淳は思わず声を大きくした。  ハッとして、すぐに音量を落とす。 「一成が嫌じゃなければ、最後までしてほしい……」 「俺はもちろん嫌じゃないよ」 「で、でも俺、全然慣れてなくて……こんな俺でも、大丈夫ですか……?」  容姿は平凡で、それを補えるほどのテクニックもない。今更ながら不安になってきた。いくら淳がお金を払う側とはいえ、相手をしてもらうのが申し訳なく思えてくる。 「慣れてないのは気にしないよ。寧ろ嬉しいし」 「そう、ですか……?」  恐らく一成は淳を気遣ってそう言ってくれているのだろう。内心では、淳に声をかけたことを後悔しているのではないか。そんな卑屈な考えが頭を擡げる。  淳が相手では勃起できないのではないだろうか。  本当に大丈夫かと心配に思う淳の臀部に、ごりっと硬いものが押し付けられた。  ビックリして視線を落とすと、正に今、勃起しないのではないかと心配に思っていた一成の男根が完全に勃起した状態でそこにあった。  淳は驚きに声も出なかった。大きな肉棒が、ビキビキと血管を浮き上がらせ、そそり立っている。  硬直する淳の耳に、一成の熱っぽい囁きが落ちてきた。 「よかった、やっぱりやめるって言われなくて」 「っ……」 「俺のちんぽ、もうこんなになっちゃってるし。正直、やめたいって言われてもやめてあげられる自信なかったんだよね」 「はっ……う……」  混乱して、言葉にならない声が漏れる。  どうして反応しているのだろう。  困惑する淳の耳に、ぬろ……っと舌が這わされた。 「んっ……」 「遠慮なく、可愛がらせてもらうね」 「ひゃっ……」  後ろから回された一成の掌が、淳の胸をまさぐる。 「んっんっんっ、ふっ、んんっ」 「声我慢しないで」 「はっ、んっ、でも……っ」 「聞かせて」 「ひぅんっ」  くるりと指先で乳輪を撫でられ、びくびくと体が震える。 「ここ、弄ったことある?」 「ふっ、ぁっ、ない……っ」 「そうなんだ。ちっちゃくて可愛いね」 「んんぁっ」  くにっと乳首を押され、むずむずするような快感がそこから生まれた。 「はっ、んっ、んっ」  そんなところを弄られて感じてしまう自分が恥ずかしくて堪らないのに、体がもっともっとと快楽を求めている。  無意識に胸を突き出し愛撫をねだれば、こりこりと突起を指の腹で転がされた。 「んあっあっあっあんっ」  声を我慢する余裕もなく、喘ぎ声が浴室に響いた。  一成が耳元で嬉しそうに笑う。 「ふふ。可愛い声。気持ちいい?」 「んっ、ぅんっ……」 「どこが気持ちいいの?」 「あっ、うっ……む、胸……」 「胸?」  途端、乳首への愛撫がピタリと止まった。  刺激が途絶え、淳は物足りなさに身を捩る。 「あっ……」 「そっか、淳は胸が気持ちいいんだ?」  そう言って、一成は両手で胸をむにむにと揉んだ。 「あっんっんっんっ」  掌に尖った乳首が擦れて気持ちいい。けれどそのもどかしいような快感は、淳の求めるものではない。もっと、さっきみたいに乳首を弄ってほしい。  欲求に抗えず、淳ははしたない望みを口にする。 「ち、ちくびっ……弄って……っ」  口にした途端、どっと羞恥が込み上げた。同時に、ぞくぞくとした快感が背筋を走る。 「乳首? 淳は乳首弄ってほしかったの?」 「うんっ、乳首、弄ってほしい……っ」  恥ずかしい言葉を口にするたびに、激しい羞恥が快感へと塗り変わる。  恥ずかしいのに、もっともっとこの快感を味わいたい。 「じゃあいっぱい弄ってあげるね」 「あぁんっ」 「淳の乳首、こりこりしてる。ぴんぴんって弾かれるの好き? ぷっくり膨らんだ乳首、くりくりされるの気持ちいい?」 「っ……」  淳は言葉にするのを躊躇った。  はしたないことを言ってしまいそうで、そんなことをしたら一成がどう思うのか、それを考えると素直に感じるままを口にすることができなかった。  でも、彼は淳の恋人ではない。友人でもない。  どれほど恥ずかしいことを言って軽蔑されても、もう二度と会うこともない相手だ。  それなら、別にどう思われてもいいはずだ。  どうせ一夜限りのことなのだから、呆れられドン引きされたって構わない。  欲望のままに乱れ、あとから死ぬほど恥ずかしい思いをすることになるとしても、今は、なにも考えず快楽に溺れたい。  淳は口を開く。 「いい……乳首、気持ちいいっ」  一度吐き出してしまえば、もう止まらなかった。 「あっあんっ、こりこりの乳首、弄られるの好き、くりくりってされるの、気持ちいいぃっ」 「はじめて弄られたのに、乳首気持ちいいの?」 「うんっ、あっあっ、一成に乳首弄られるのきもちいいっ、あぁっあっ、もっといっぱいされたいっ」  一成の興奮したような熱い吐息が耳に吹き込まれる。 「もっと? このいやらしい乳首、俺に弄られて気持ちよくなりたいの?」 「あんっ、んっ、一成に弄られたいっ、一成に気持ちよくしてほし、んあぁっ、あっひんっ」  一成の愛撫が激しくなった。ぐにぐにと押し潰され、ぎゅうっと引っ張られ、赤く腫れた乳首を今度は優しく撫で擦られる。 「ひあぁっ、きもちいっ、あっあっあぁっ」 「はあっ、可愛い、乳首だけでこんなに乱れて」 「んあっ、あっ、いいっ、一成の指で、乳首弄られるのすきぃっ、ひあぁんっ」 「さっきまであんなに恥ずかしがってたのに……。エロくて可愛いけど、ほんとにはじめてなの?」 「ひっ、んんっ、うん、はじめて、なのに、いっぱい感じちゃうっ、こんな気持ちいいのはじめてで、もっと気持ちよくなりたいっ」  淳は感じるままに素直に言葉を吐き出した。  ただ気持ちよくて、快楽だけに頭を支配されていた。  一成に顎を掴まれ、首だけ後ろを振り返ると、唇を重ねられた。舌を捩じ込まれ、口の中をぐちゃぐちゃに犯される。 「んはっ、はっ、んんっ……」 「はっ……いいよ、もっと気持ちよくしてあげる」  胸元にあった手が、するりと下に下がっていく。  乳首への刺激で淳のぺニスは勃起していた。 「ふふ、淳のおちんちん、射精したそうにぷるぷるしてるね」 「ひあぁっ」 「でも、まだダメだよ」  ぺニスを一撫でして、一成の手は更に下へ潜っていく。 「あっ……」  ぐにぐにと、一成の指がアナルを撫でる。 「ここで、いっぱい気持ちよくしてあげるからね」 「んあぁっ」  ぬぷりと、指が差し込まれる。 「固くて狭い。ほんとにはじめてなんだ」 「あっあっあっ」  慎重に、ゆっくりと内部を解される。  異物感に怯え一成の腕に縋りつけば、こめかみに優しく唇を落とされた。 「ふぁっ、んっんっ、はっ、ふうっ……」  淳は抵抗せず、脚を広げておとなしく彼の指を受け入れた。 「いい子だね、可愛いよ、淳」  声をかけて宥めながら、一成の指が直腸を探る。 そしてある一点に触れられた瞬間、淳は悲鳴を上げた。 「あああぁっ」  びくびくっと体が跳ね、浴槽のお湯がぱちゃぱちゃと揺れる。  強烈な快楽に、淳は強く一成の腕にしがみつく。 「んひっ、ひっ、あぁっ、あひっ」 「大丈夫だよ、気持ちよくなれて偉いね、怖くないからね。ほら、ここ撫で撫でされて気持ちいいね?」 「ひぅんっ、そ、こぉっ、なでなで、あぁっ、きもちいぃっ」 「いい子だね、ここ弄られるの好き?」 「んっ、すきぃっ、あぁっあっあっあっ」  あられもない嬌声が浴室に響き渡る。 「ひあぁっ、いいっ、なでなで、されるの気持ちいいっ」 「じゃあ、少し強めにぐりぐりしてみようか」 「んひぃっ」  前立腺を指で押し潰すように強く擦り上げられ、淳は喉を仰け反らせて悲鳴を上げた。意思とは関係なく、ばちゃばちゃと足がお湯を掻く。 「ひっひぁっ、あっあっあっ、そこ、しゅごいぃっ、きもちいっ、あっひっああっ」  淳は一成の肩に後頭部を押し付け、快楽に身悶えた。腰が勝手にガクガクと揺れ、ぺニスから先走りが溢れ出す。  柔らかくなった後孔に一本ずつ指が増やされていった。 「すごいね、淳のお尻、もう俺の指三本も飲み込んでるよ」 「んひあぁっ、そん、な、あぁっ、指、広げちゃ、あっ、お湯、入って、あっあっあぁんっ、お尻、ぐちゃぐちゃ、なるぅっ」 「もっとぐちゃぐちゃにしたいな。ねえ、淳のここ、俺のちんぽでぐちゃぐちゃにしてもいい?」  耳元で囁かれ、ぞくっと体が期待に震えた。  胎内が疼き、埋め込まれた彼の指を締め付ける。  そこは更なる刺激を求め、めちゃくちゃにされたいと望んでいた。 「して、してぇっ、一成のおちんぽで、俺のお尻ぐちゃぐちゃにして……っ」  言い終わるや否や、勢いよく指が引き抜かれた。 「ああぁんっ」 「っ……はあっ、危なくここで突っ込むところだった」  上擦る声で一成が呟きを漏らす。 「いっせぃ……?」 「ベッドに行こう。淳のはじめてもらうなら、ちゃんとベッドで抱きたいから」  淳は別にどこだって構わないのに。けれど気遣ってもらえて嬉しかった。  一成に手を引かれるまま、淳は浴室を出た。  ベッドに上がるなり、淳は四つん這いになった。 「あの、後ろから、して……」  と、一成に頼む。  みっともない声を聞かせた上、はしたなく歪んだ淳の顔を見ながらでは萎えてしまうのではないかと思った。ちゃんと抱いてほしいし、できれば彼にも気持ちよくなってほしい。 「だーめ」  しかし淳の頼みはあっさり却下された。  くるりと体を引っくり返され、一成と向かい合う。  綺麗な顔に見下ろされ、淳はうろうろと視線をさ迷わせた。 「な、なんでっ……?」 「だって淳といっぱいチューしたいし。淳の乳首ペロペロしたりちゅうって吸ったり、かりかりって優しく噛んだりしたいし」 「っ、っ……」 「淳がおちんちんから精液出すところも見たいし」 「はっ……ふ……っ」  一成に指一本触られていないのに、体がぞくぞくして、息が上がる。乳首とぺニスとアナルがきゅんと疼いた。 「それに、とろとろになっちゃってる淳の可愛い顔見てたいしね」  可愛くなんてないのに。だが、そうやって客を喜ばせることを言うのも彼の仕事なのだろう。それを、ムキになって否定するのは失礼かもしれない。  しかし、萎えてしまわないだろうか。慣れているから平気なのだろうか。  不安に思って見つめると、蕩けるように甘い一成の瞳と目が合う。 「ね? だからいいよね?」 「う、う、う、うん……」  断れず頷くと、嬉しそうに笑う一成にキスをされた。  深く口づけながら、一成は自身の性器に避妊具を装着する。  舌が絡まり、舌を甘噛みされ、上顎を舐め擦られ、溢れる唾液を必死に飲み下しながら淳は激しいキスを受け入れた。  貪るようなキスは気持ちよくて、淳の身も心も溶かしていく。  散々弄られたアナルが刺激を求めてきゅっと締まった。早く、そこをいっぱいに満たしてほしい。それしか考えられなくなる。  糸を引きながら唇が離れ、両脚を抱え上げられた。晒された後孔に、彼の欲望を押し付けられる。 「あっ……」 「どうしてほしい?」  ギラギラと情欲を孕んだ一成の瞳に見下ろされ、淳は欲望に抗わず、素直に自分の思いを口にする。 「一成のおちんぽ、入れて……奥までいっぱいにして、ほしい……俺の中、一成に、いっぱい、ぐちゃぐちゃにされたい……っ」 「淳……っ」 「んんんん~~~~っ」  再び唇を貪られ、同時に男根を突き入れられた。 「んっんっんっ、はあっ、んんっ」 「はっ、ごめん、ゆっくり入れようと思ったのに、一気に入っちゃった……」 「あっんっんっ、あぁっ」 「大丈夫? 苦しくない?」 「だい、じょうぶ……んっ、あっ」  苦しいどころか、繋がっている箇所から強い快感が生まれ、じんじんと全身が痺れるように熱くなっていく。 「ゆっくり動くからね」 「んああぁあっ」  剛直に肉筒を擦られ、淳は背中を弓なりに反らせて嬌声を上げた。  強烈な快楽に、思考が蕩けていく。 「あっあっあっ、ひんんっ、いいっ、きもちいっ、そこっ、はひっ、あっあっ、ごりごりされるのきもちいいぃっ」 「っ、ここ?」 「んひぁっ、あっあっ、そこぉっ、一成のおちんぽで、ごりごりってぇ、あぁっあっ、きもちいいっ」 「はあっ、じゃあたくさん擦ってあげる……っ」 「ああぁっ、そんな、そこばっかりぃっ、されたら、あっあっあぁんっ、きもちよすぎて、おかひく、な、あっあっあっあぁっ」  雁の部分でぐりぐりと前立腺を抉られ、淳は強すぎる快感に涙を流して身悶えた。  涙と涎でぐちゃぐちゃの酷い顔を晒してしまっている。見苦しいだろうに、一成は淳の顔から片時も目を離さない。熱を宿した彼の瞳が、淳をまっすぐに見つめている。埋め込まれた陰茎は萎えることなく、固く張り詰めたまま、腸壁を擦り上げた。 「んんぁっ、はっ、あんっあっあっあっ」 「ここ、ちんぽで擦られるの好き?」 「すきぃっ、きもちいっ、あぁっ、もっと、ぉっ、あっあっひあぁっ」  一成は淳の望むまま、押し潰すような勢いで肉壁を捏ね回してくれた。  気持ちよくて、際限なく快感を求めてしまう。自分がこんなに快楽に貪欲な人間だったなんて知らなかった。こうして一成に抱かれなければ、きっと気づけなかった。 「それすき、すきっ、きもちいいっ、あっあっんんっ、も、いっちゃ、ぁあっあっ」 「我慢しなくていいよ、イッて」 「んひっ、いくっ、いくいくぅっ、あっ、あーっ」  絶頂感が込み上げ、激しく中を擦られ、ぺニスを扱かれ、促されるまま淳は上り詰めた。精液が下腹に飛び散る。 「んっ……あっあっ……」  蕩けた顔で、射精の余韻にぶるぶると体を震わせる淳を、一成はうっとりと見ていた。 「はあっ、可愛い、可愛いね、淳、おちんちんから精液ぴゅーぴゅーしてる淳のイキ顔可愛くて、俺も我慢できない、一回イッていい?」 「うん、一成もいって、あっあっあんっあっあぁっ」 「淳、淳……っ」  淳の腰をがっちり掴み、一成は腰を振り立てた。  余裕のないその様子が淳は嬉しかった。淳が相手でも、興奮してくれているのが伝わってきて。  剛直に肉筒を掻き回され、浅い出し入れを何度も繰り返されて、淳もまた深い快楽に溺れた。 「んあぁっあぁっあんっ、いいっ、お尻、ぐちゅぐちゅされて、あっあっ、俺、またいっちゃうぅっ」 「っは……はあっ……いいよ、一緒に」 「ひんっ、あっあっ、いく、いっ、あっあっ、~~~~~~っ」 「っ、イく……っ」  淳が絶頂を迎えるのと同時に、ゴム越しに一成の熱が弾けた。  淳は必死に酸素を取り込んで息を整える。淳の呼吸が落ち着いてから、一成は陰茎を引き抜いた。  胎内をいっぱいに満たしていたものを失い、中が切なく疼く。これでおしまいなのだと思うと、胸もきゅっと締め付けられた。  一成は避妊具を外し、新しいものに交換する。  淳はそれをぼんやりと見ていた。 「一成……もう一回、してくれるの……?」 「まさか。もう一回じゃ足りないよ」  てっきり一回で終わりだと思っていた。物足りないと訴えていた体が、歓喜に震える。  一成は苦笑を浮かべはにかんだ。 「余裕なくしちゃってごめんね。チューも全然できなかったし、乳首もほったらかしにして、がつがつ腰振っちゃった」  淳は充分気持ちよかったので謝ってもらわなくても構わないのだが、一成は仕事だからそういうわけにはいかないのかもしれない。 「だから次はもっとちゃんとじっくり、淳がどろっどろになるくらい気持ちよくしてあげる」 「っ……」 「嬉しそうな顔。淳は気持ちいいのが大好きなんだね」 「うん、好き……」  素直に頷けば、一成は興奮したように唇の端を吊り上げた。  優しい笑顔も似合っているけれど、欲望の滲んだ笑顔も色っぽくて素敵だな、と淳は彼に見惚れた。  キスをしながら、一成は再び体を繋げる。  ゆっくりと隘路を押し広げられ、ずりずりと肉壁を擦られる感覚に淳は体を震わせた。  角度を変えてキスを繰り返され、いつしか淳も自分から積極的に舌を絡めていた。  緩く腰を揺すりながら、一成は淳の胸に触れる。  執拗に弄られて赤く膨らんだ乳首は敏感になっていて、少し撫でられただけで痺れるような快感が走った。 「ふぅっ、んんっんっんっ」  乳頭を指の腹ですりすりと擦られると、ぞくぞくっと背筋が浮かび、後孔がぎゅううっと締まる。キスをしながら、一成が息を詰めるのがわかった。 「っは……」 「ぁんんっ、ふぅんんっ、はっ、ぅんっ」 「はっ、あっ……乳首ちょっと弄るだけで、お尻きゅんきゅんするね」 「あっあっ、ちくび、きもちよくて、んんっ、お尻きゅってすると、固いの擦れてもっときもちよくなるぅっ」 「腰びくびくしちゃって、可愛いなぁ」 「ひゃぅんっ」  首筋を舐め上げられ、皮膚に吸い付かれた。僅かな痛みを感じたが、すぐに快楽に変換される。  一成の舌が鎖骨を辿り、胸元へと下りていった。  乳輪を舐められただけで、乳首が甘く疼く。  期待に瞳を潤ませる淳を見て、一成はうっそりと微笑んだ。見せつけるようにゆっくりと、先端をねぶる。 「あぁんっ、あっあっあんっ」  唾液でぬるぬるになった乳首を舌で転がされ、淳は快感に喘ぐ。  一成は乳輪ごと口に含んでじゅるじゅると吸い上げた。もう片方は指で挟んでくりくりと捻る。 「ひあぁっあぁんっ、きもちいっ、ちくびぃっ、ちゅうって吸われるの、きもちいいっ、あっあっひぅんっ、あぁっ、歯で、こりこりされるのもすきぃっ、ひっあっあっあっんあぁんっ」 「ん、ちゅっ、気持ちいいのは乳首だけ?」 「んあっ、お尻もっ、お尻もきもちいいっ、はっひぃんっ、きもちいいところ、ごりごりあたって、あっあっああぁっ」 「はっ、んっ……すごいね、淳、自分で腰振って、俺のちんぽ使って気持ちよくなってるの?」  一成が意地悪く唇を歪める。  その笑みにぞくぞくしながら、淳は無意識に腰を揺すっていたことに気づいた。  一成は腰の動きを止めていて、淳は自分で彼の亀頭を気持ちいいところに擦り付けていたのだ。 「ひぅっ、ごめ、なさ、あっあっ、きもちよくて、腰止まらないっ、中、擦れて、あんっあっあっ、ちくび、いっぱい弄られて、俺、また、いっちゃうっ」 「っ、イッて、淳……俺に乳首吸われて、自分でいやらしく腰振ってイッちゃうとこ見せて」 「ひんっ、んっあっあっあっあ────っ」  乳首にしゃぶりつかれ、淳はガクガクとはしたなく腰を振りながら絶頂を迎えた。  舌を伸ばし、だらしなく涎を垂らす淳の唇に、一成が吸い付く。 「んっ、んっんっ、ふぁっ……」 「はあっ……淳、可愛い」  息を乱し、頬を紅潮させながら、一成は淳の唇にむしゃぶりついた。 「淳っ……んっ、淳」 「ふっ……ぅんんっ、はっ、ふ……っ」 「っは、はあっ……淳、俺のちんぽもっと奥まで入れていい?」  言われて、淳は彼の陰茎を全て受け入れていなかったことに気づいた。太くて大きくて圧迫感がすごいので全部入っているのだと思っていた。それでは一成は物足りないのだろう。 「うん、いいよ、入れて、一成の、全部……」  ちゃんと全部入るのか不安だったが、淳が拒むことはなかった。  一成の瞳が、とろりと甘く蕩ける。 「はあっ、可愛い、淳、好き……」  好きと言われて一瞬驚いたが、それもリップサービスなのだろうと聞き流した。こんな風に熱っぽい眼差しで見つめられたら、本気にしてしまう人がいるのではないか。  そんなことを考えていたが、一成に深く口付けられながら剛直を奥へと捩じ込まれて思考など吹き飛んだ。 「んんんん~~~~っ」  亀頭が肉壁を掻き分け、奥深くへと侵入してくる。  淳は目を見開き、全身を痙攣させて埋め込まれる剛直を受け入れた。  甘やかすように淳の唇を啄みながら、一成は容赦なく肉棒を突き入れる。 「んっ、ひはあぁっ」  ぐちゅんっと最奥を貫かれ、淳の口から甲高い悲鳴が上がる。  そこで漸く、一成は動きを止めた。 「はあっ、はっ……全部入ったよ」 「あっ……ひっ、ひうぅっ」 「っ、淳、苦しい? 大丈夫?」 「んっ、らいじょ、ぶぅっ、んんっ」  一成が心配そうに淳の顔を覗き込む。  大丈夫なのだと伝えたくて、淳はへらりと頬を緩めた。 「へぇき、くるひくない……からぁっ、あっ」 「淳……」 「いっせ、いっせいは、きもちいい? 俺のなか、あっ、いっせぃのおちんぽ、んっ、きもちよくできてる?」 「っ……気持ちいいよ、すっごく」 「よかった……俺もきもちいっ、お腹のおくぅっ、一成のおちんぽでいっぱいで、きもちいぃっんんんぅっ」  一成に強く抱き締められ、めちゃくちゃにキスをされた。唇も、下半身も、彼と深く繋がっている。  本当に、恋人に抱かれているような感覚になった。一成が声をかけてくれなければ、一生味わうことはなかっただろう。  淳も腕を伸ばして彼の背中にしがみついた。触れ合う肌の感触が心地いい。こうして裸で抱き合うのがこんなに気持ちいいのだということも知らなかった。 「はあっ、可愛い、淳、好きだよ」 「んっあっあっ、ひぅんっ」  剛直で奥をごりごりと抉られ、目も眩むような快楽に襲われる。 「ひあぁっあっひんっ、しゅご、おくぅっ、きもちいぃっ、あっあっあひんっ、かたいので、いっぱい中こすられてぇっ、きもちいいよぉっ」 「っ、はじめてなのに、こんなに感じて、上手に俺のちんぽ扱いて……っ」 「あっあっあっひぃんっ」 「これ好き? ちんぽで奥突かれるの好き?」 「ひあっあっ、しゅきっ、おく、ずんずんってぇっ、すきっ、きもちいいのっ、あっんあぁっ」  思考は蕩け、淳は自分から一成に唇を寄せた。ちゅ、と唇を触れ合わせれば、彼はすぐにキスに応えてくれる。差し込まれた彼の舌に、淳は拙く吸い付いた。  一成はそれに煽られたように最奥を激しく突き上げる。 「んっ……はあっ、あっ……ごめん、淳が可愛くて、淳の中、気持ちよすぎて、手加減できないっ」 「あっあっあっあんっ、いい、からぁっ、一成も、俺できもちよくなってぇっ、んんっあっあっ、いっぱい、して、ひあっああぁっ」  優しくしてくれなくても構わなかった。淳と同じだけ、彼にも気持ちよくなってほしい。自分だけではなく、一緒に気持ちよくなりたかった。  淳は一成の腰に足を絡め体を密着させる。 「んあぁっ、して、はげしくしてぇっ、いっせ、いっせぇっ、ひああぁっ」 「っ、はあっ、可愛い、なんでそんなに可愛いのっ、淳、好き、好きだよっ」 「あっあっひっ、ひあっ、ああぁっあっあんんっ」  甘ったるい、けれど情欲を孕んだ声音で、何度も何度も好きだと囁かれた。それが本心なのではないかと錯覚してしまいそうなくらい、彼の言葉は熱を帯びていた。  けれど現実にそんなことはあり得ない。  熱に浮かされながらも、それだけはしっかりと理解していた。  淳は彼をお金で買ったに過ぎない。  一夜限りの関係なのだ。  それでも、淳にとっては本当に夢のような出来事だった。

ともだちにシェアしよう!