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2.思い出のミックスジュース(6)

「あら。ごめんなさいね、それじゃあごゆっくりどうぞ」 「はい。どうも」  おばあさんは足早にカウンターへと戻る。  それから程なくして、マスターがおばあさんに小声で説教するのが聞こえてきた。  どうやら店員のおばあさんは、他人の家庭の事情に首を突っ込むのが好きらしい。マスターはその悪い癖をとがめていたのだった。  たぶん、これまでにも何度かああいう光景が繰り広げられていたんだろうな。 「ミオ、おいしいかい?」 「うん。甘くてすごくおいしいよー」  よほど気に入ったのか、ミオはニコニコしながらミックスジュースを味わっている。  俺もグラスにストローを挿して飲んでみると、すりおろされた果肉が口の中いっぱいに広がって、ものすごく懐かしい気分になった。 「おぉ。これはうまい」 「でしょ?」 「うん。すりおろされた果物たちと、牛乳の配分が絶妙だなぁ」 「ボク、こんなにすごいジュース飲んだの初めてだよ」 「そうなの?」 「うん。施設にいたときは、ジュースよりも牛乳を飲む事が多かったの。背が伸びますようにって」 「へぇ。そういう食育の方針は学校の給食と同じなんだなぁ」  ただ、その食育の成果は今ひとつなのか、はたまた体質なのか。ミオは年齢の割にちと小柄だった。  そういうところも相まって、人はミオを女の子だと勘違いしやすいのかも知れない。  もっとも、その小さくて抱きごこちのいい体つきも、この子を〝ショタっ娘〟たらしめる魅力のひとつなんだし、本人がもっと大きくなりたいと切望しない限りは、当分このままでもいいんじゃないかなとは思った。  こういう考え方は危険だろうか。 「お兄ちゃん、お店に連れてきてくれてありがとね」 「ああ。今度は、学校が休みの日にまた来ような」 「うん。また一緒にジュース飲もうね」  俺が子供だった時も、デパートに連れて行ってもらっては、よくこんな果肉たっぷりのミックスジュースを飲ませてもらっていたっけ。  あの時の体験と味わいは、いい思い出として、大人になった今でも鮮明に覚えている。  今日、二人で飲んだお手製ミックスジュースの事も、ミオにとって大切な思い出になってくれるだろうか。

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