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10.初めての魚釣り(2)

「あ。でもお兄ちゃん」 「ん?」 「お兄ちゃんは魚釣りの道具を持ってるの?」 「道具は持ってないけど、今日行く海釣り公園なら、全部貸してくれるんだ。だからあとはエサを買うだけで大丈夫だと思うよ」 「エサはどこで買えばいいの?」 「エサも、ある程度は売店で買えるから心配いらないよ。とにかく、手ぶらで行ってもお手軽に釣りができるのがあそこの売りでね、デートスポットとしても人気なんだ」 「そうなんだー。じゃあ、今日はお兄ちゃんと魚釣りデートだね」 「えっ……」  その言葉に一瞬ドキッとしてしまった。  俺たちは里親とその子供という関係なのだから、デートだなんて発想は頭の片隅にも無かったのだ。  そもそも、あの海釣り公園がデートスポットだと教えたのは誰あろう俺自身なのだが、まさか、ミオとデートすることを想定して発言はしなかったのである。  どうしよう。魚釣りをしようという大まかなプランを提示したのはいいが、デートとなると、もっと綿密に計画を立てる必要があるのではないか?  ランチは公園内にある展望レストランで取るとして、ディナーはどの店の何料理にするかとか、その後をどこで過ごすか、などなど。  いやいや待て自分、それは余りにも考えすぎじゃないか? 目の前にいるのは、歳の離れた小さな男の子だぞ。  確かに恋愛の形は自由だとは言ったが、里親である俺が、ミオの事を恋愛対象としてデートに連れて行くのはご法度ではないのか。  でも今時、同性や年の差カップルなんて珍しくもないわけだし、やっぱりしっかりとしたデートプランは練っておくべきかも知れない。 「もう。またお兄ちゃん考え事してるー」  難しい顔をしてしばらく考え込んでいると、呆れたようにミオが口を開いた。 「ご、ごめん。今、魚釣りした後はどうするかを考えてたんだ」 「えー? お家に帰るんじゃないの?」 「でもディナーが……」 「ディナー?」 「えと、晩ご飯をどこに行って食べようかって」 「ねぇお兄ちゃん。今日は魚釣りに行くんでしょ? ボク、そんなにいろんなところへ行ったら疲れちゃうよ」  というミオの言葉で、俺は我に返った。一体俺は、何を浮かれていたんだ。  ミオが魚釣りに興味を持ったから、実際に魚釣りを体験させてあげようと思った。そこまではいい。  が、ミオが口にした〝デート〟というフレーズに過剰反応して、あれこれと深く考えてしまっただけのはさすがにいただけない。  たぶんミオ自身も〝デート〟に関しては、そこまで深い意味を持たせていなかったはずだ。  おそらく、外出先にて二人っきりで過ごす事くらいの意味合いなのだろう。  こうやって一つのフレーズについて、変に深読みして考え込んでしまうのは、俺の昔からの悪いクセだった。

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