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10.初めての魚釣り(3)
「そうだな、ごめんよミオ。じゃあ九時になったら出かけようか」
「うん。それまでにお着替えしておくね」
俺たちはいつもより少し遅めの朝食を取った後、マイカーを駆って海釣り公園へと向かった。
こうして車を運転するのは、児童養護施設からミオを引き取り、自宅へと迎え入れた時以来になる。
二年前に新車で購入した我が家のワゴン車は、軽自動車よりも一回り大きいくらいのコンパクトサイズではあるが、乗り心地自体は悪くない。
むしろコンパクトなおかげで小回りはきくし駐車も楽ちん、さらに燃費も良好と三拍子揃っているので、一人暮らしならこれで充分かなと思って即決したのである。
惜しむらくはこの車を女の子とのデートに活用できなかった事だが、今では、女の子にも負けないくらいかわいいショタっ娘が助手席に座っている。
そして今日は、そのショタっ娘と二人っきりで魚釣りデートをするのだ。最高のシチュエーションではないか。
――もうすぐ夏に差し掛かろうかという月の、とある土曜日。本日は雲一つない、抜けるような青空が広がる快晴だ。
少しだけ開けた窓から流れ込む心地よい風が、ミオの爽やかなブルーの髪を揺らしていた。
「ミオ、寒くないか?」
「大丈夫。すごく気持ちいいよー」
ミオは笑顔で答える。
これまで、車に乗って移動するという機会がほとんど無かったこの子にとって、こういうドライブはきっと新鮮なものなんだろうな。
「ね、お兄ちゃん。あれなーに?」
ミオが、窓の外にある何かを指差して尋ねてきた。
「『あれ』って、観覧車の事かな」
「カンランシャ?」
「うん。遊園地にある乗り物なんだけどね、あれに乗って高いところまで上ってさ、下の景色を見て楽しむんだよ」
「そうなんだー。でもあんなに上まで行って、怖くなったりしないのかな?」
「そうだなぁ。高所恐怖症みたいに、高いところから下を見るのが怖いって人は、まず乗れないだろうね」
「やっぱりそういう人いるんだねー」
「ミオは、高いところは平気なの?」
「んー……」
ミオが、人差し指を頬に当てて考える。
「分かんないけど、観覧車には一度乗ってみたいな。あれくらい上から見たら、周りがどんな景色になるのかなってワクワクするの」
「そっか。じゃあ、今度の休みは遊園地に行って、一緒に観覧車に乗ろうか」
「うん! ありがとうお兄ちゃん。ボク、楽しみにしてるね」
明日はさすがにゆっくり休みたいから、遊園地に連れて行くなら次の土曜日、あるいは日曜日かな。
これでまた、マイカーを活用できる機会が増えた。
俺も子供のころは、親が運転する自家用車で、いろんなところへ連れて行ってもらったんだよなぁ。
今しがた話した遊園地はもちろん、デパートやレストラン、県外への小旅行などなど。
その車内で流れていたラジオの曲や、過ぎ去っていく窓の外の景色は、今でもおぼろげながら覚えている。とてもいい思い出だ。
俺にも子供ができたら一緒にドライブを楽しみたいと思っていたんだが、ミオが来てくれたことで、その念願がついに叶ったわけだ。
後は、目的地である海釣り公園が混雑してない事を祈るばかりなんだけど、さすがに土曜日だから難しいだろうか。
もっとも、数ある釣り台の中から、人ひとり分の場所さえ確保できれば、釣りはできるはずだ。
だから最悪、ミオにだけでも魚釣りを経験させてあげられれば御の字かな、などと考えつつ、俺は車を走らせるのだった。
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