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10.初めての魚釣り(4)

 俺たちがやって来た海釣り公園は、自宅のマンションから、車でおよそ二十分程のところにある。  敷地内の駐車場に入ると、先客のものと思われるセダンやワゴン車、ワンボックスカーなど、さまざまな車がまばらに停められていた。  これが満車だったら目も当てられないところだ。早めに出発しておいてよかったな。  ミオを車から降ろし、俺たちは売店へと向かった。まずそこで売っている遊漁券(ゆうぎょけん)を購入し、魚釣りをする権利をもらう必要があるのだ。 「いらっしゃいませー」  ほんのりと磯の香りが漂う売店。そこでは、多少ふくよかな店員のおばさんが愛想よく迎えてくれた。 「すみません、遊漁券を大人一枚と子供一枚ください」 「はい、かしこまりましたー。一日券と半日券がありますけど、どちらにされますか?」  一日券って要するに、閉園まで遊べる遊漁券の事か。  出かける前にネットで調べた情報によると、確か、この海釣り公園の閉園時刻は午後八時だったな。  今日はミオに軽く魚釣りを体験させるのが目的なので、さすがに長時間粘る必要はないだろう。 「半日券でお願いします」 「はーい。それじゃ千五百円になりますね」 「あと、釣具も借りたいんですけど……二人分ありますか?」 「ございますよー。堤防釣りセットの大人用と子供用でいいですか?」 「はい、それで」 「仕掛けとエサはどうされます?」  ん? 仕掛け?  要するに魚の釣り方を聞いているのかな。  しまったな、ここの営業時間は調べてきたけど、最近の釣果情報まではチェックしていなかったから、今は何が釣れるのか全然分からないぞ。  魚種によってには全く釣れないシーズンがあるので、適当な仕掛けとエサを使っても、結果はついてこないだろう。  体の小さいミオにも可能で、なおかつ釣れそうな仕掛けと言えば何になるのか――。 「あのぉ、アジは釣れますか?」  俺の後ろにいたミオが、ひょっこりと顔を出して尋ねた。 「今ならどこででも釣れますよー。ちょっと小さい豆アジだけどね」 「お兄ちゃん、アジが釣れるんだって! ボク、アジを釣りたいよ」  今朝のテレビ番組で見たのか、それとも施設にいた時からなのかは分からないが、とにかくミオはアジの事を知っており、釣りたくて仕方がないようだ。 「そ、そっか。じゃあアジが釣れる仕掛けを買います」 「だったらサビキのセットがいいかしらねぇ。サビキ釣りなら、そちらのさんでも簡単に釣れると思いますよ」 「え。妹……?」 「くすっ」  自分が妹だと間違えられ、唖然とするミオを見て、俺は思わず吹き出してしまった。

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