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10.初めての魚釣り(6)

「海が綺麗だねー」  ミオは柵から少しだけ身を乗り出し、透き通ったセルリアンブルーの水面を見渡した。 「うん、これなら底までよく見えそうだ。今は釣れそうな魚がいるかな?」 「んー。すごく小さい魚が群れになってるみたいだけど、あれはアジじゃないよね?」  ミオが指差すところを覗き込んでみると、確かに小魚が十匹くらいで円を描くように泳いでいたが、その正体はアジではないようだった。  アジが回遊して来るならおそらく大群になるだろうし、もっと魚体がキラキラとしているはずだから。 「アジはまだ来てないみたいだね。じゃあ今のうちに、竿に仕掛けを付けちゃおっか」 「うん。そうするー」 「ミオ、仕掛けの付け方は分かる?」 「えと、仕掛けが入ってる袋の裏に付け方が書いてあるから、自分でやってみるね」  サビキ仕掛けというのは、一本の幹糸(※リールに巻かれた道糸の先端に結ぶ釣り糸の事)から、木の枝が伸びるように、複数もの短い糸が結ばれている。  それをエダスと言うのだが、そのエダスに釣り針と疑似餌が括り付けられているので、それをコマセという寄せエサと同調させて魚に食わせるという仕組みになっている。  釣り人によっては、サビキ釣りは邪道と主張する人もいるらしいが、釣り方は簡単かつお手軽だし、何より子供たちが魚に触れ合うための入門用としては最適だと思うのだ。  ただ、なにぶん針の数が多いので、指に刺さってケガをしたりしないように、細心の注意を払う必要はある。  ミオが慣れない手つきで仕掛けを付けている間、ケガをしないか、俺は内心ハラハラしながら見守っていた。 「ふー、これでいいかなぁ」 「お、いいんじゃないか」  ミオが自分で付けた仕掛けは、糸が絡まったりする事も無く、初めてにしては上等な出来だった。  と思ったが――。 「あれ。ミオ、カゴ付け忘れてるよ」 「え……あっ! 仕掛けを付けるのに一生懸命で、カゴの事忘れてたぁ」 「はは。じゃあ俺が付けてあげるから、そのまま竿持ってな」 「うん。ごめんねお兄ちゃん」 「いいんだよ、謝らなくて」  サビキ仕掛けで釣りをする場合、疑似餌と釣り針が付いた幹糸の他、小さなカゴを取り付ける必要がある。  そのカゴから寄せエサが出てこないと、魚が誘いに乗ってくれないのだ。  俺はミオに竿を立たせ、伸ばした糸に手際よくカゴを取り付けた。料理は上手くないし洗濯物干しも雑だが、こういう細かい手作業だけは得意なのだった。  後は、仕掛けのカゴに寄せエサを入れて落とし込むだけだ。 「これでよしと。ミオ、アジがたくさん釣れるといいな」 「うん、ボク頑張るよ!」  こうして、ミオの人生初の魚釣りが幕を開けた。  後は目的のお魚、アジの回遊を待つだけだ。

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