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10.初めての魚釣り(8)

 家を出る前、この海釣り公園は釣り人だけでなく、デートスポットとしてカップルにも人気がある、という事をミオに教えた。  なぜ俺がそれを知っていたのかというと、元カノと付き合っていた時、デートコースを下調べした際にここをリストアップして、実際に行った事があるからだ。  実を言うと、その時は三時間粘って、結局何も釣れなかったんだよなぁ。  元カノには散々悪態をつかれるわ、結局ランチも取らずに帰る事になるわで、あまりいい思い出は無かった。  そういうのもデートに加えていいのなら、一応、デートした事にはなる。  が、それをミオが気にしたのは、一体どういう心境からなのだろうか。  もしかして、元カノと行ったデートコースを使い回している事にやきもちを焼いているとか?  いや、まさかな。  ミオは男の子だし、かつ里親である俺の子供なんだから、そんな嫉妬に近い感情を抱くはずは無いと思うのだが……。 「ね。デートしたんでしょ?」 「ああ、したよ。元カノと行ったんだ」 「お兄ちゃん、その人と一緒の時は、お魚たくさん釣れたの?」 「え? いいや、二人ともだったよ」 「ボウズ?」 「そ。小魚一匹すら釣れなかった事を、釣り用語でボウズって言うの」 「そうなんだー。じゃあ今日ボクがお魚釣ったら、その人に勝てるよね」 「ん? ……うん、そうなるの、かな」 「よーし、頑張ろっ」  よく分からんが、どうやらミオは俺の元カノに対抗心を燃やしているらしい。  まぁ何であれ、やる気が湧いてくるのはいい事だ。釣れないからといって飽きて帰られると、あの時の二の舞になって、また苦い思い出が増えてしまうのだから。  ――寄せエサをカゴに詰めて、仕掛けごと海に沈め、竿をしゃくり続けること、およそ三十分。  ようやく俺の竿に、ピクンと当たりが来た。 「おっ」 「ん? お兄ちゃん、どしたの?」 「何か掛かったみたいだ」  すぐさま竿を合わせ、リールを巻き、仕掛けを引き上げる。  すると一番上の針に、体が銀色に輝く、小さな魚が食いついていた。 「あ。これはイワシだな」 「イワシ?」 「イワシもサビキで釣れる魚だよ。アジと一緒の回遊魚なんだけど、潮が動いて回って来たのかなぁ」 「そうなんだ。小さくてかわいいねー」  ミオは自分の竿を置いて、釣れた魚を興味しんしんといった様子で眺めている。 「こいつはちょっと小さすぎるから、逃がしてあげよっか」 「うん」  俺は魚が火傷しないように、海水が入ったバケツで手を濡らし、そっと仕掛けを外して、海へと逃がした。

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