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11.二人の魚料理(3)
――さて、残った豆アジはどうしようか?
南蛮漬け以外で、いかなる調理方法があるのかをざっと調べてみたところ、唐揚げにするのがポピュラーだとの事。
でも今は唐揚げ粉が手元に無いんだよなぁ。
近くに品揃えのいいスーパーどころか、コンビニすら建っていない立地は、こういう時に不便だな。
こうなりゃミオにお留守番してもらって、車でひとっ走り買いに行ってくるか?
いや、その前に、ミオがどんな料理を食べたいのか希望を聞くのが先決だな。
「ミオ。残ってるアジだけど……どうやって食べたい?」
「んーとね、ボク〝漬 け丼〟がいいな」
「漬け丼?」
「うん。昨日のテレビでやってたの。アジをタレに浸して、温かいご飯に乗せて食べるとおいしいんだって」
「へぇー、そうなのか。じゃあ残りは全部漬け丼にしちゃおっか」
「うん!」
漬け丼なら何となく作り方は分かる。
要は、醤油と味醂 を混ぜ合わせてタレを作り、煮立たせ、その中にアジを漬け込んで味を染み込ませればいいのだ。
南蛮漬けと漬け丼で〝漬け〟がダブってしまったが、せっかくのミオのリクエストだ。
初めて作る料理で多少の不安はあるものの、何とか満足してもらえるよう、ベストを尽くしたい。
一般的に漬け丼を作る際は、たいてい一口サイズの切り身を用いるのだが、俺たちが釣ってきた豆アジは、そこまで切り分けなくてもいいくらい小ぶりなものばかりだ。
かと言って何もせずに丸ごと一匹ずつ乗せると、それはそれで、食べる時に残ったゼイゴや中骨の処理に難儀 する。
漬け丼のアジは南蛮漬けとは違い、素揚げをしないので、ゼイゴや骨は柔らかくならないのだ。
よって、豆アジであっても、まずは一匹ずつ三枚におろし、骨のある部分とゼイゴを除去する必要がある。
ただ、さすがに豆アジ二十数匹を丁寧に三枚おろしにしていると、それこそ鮮度が落ちてしまう。
なので今回は、ネットで紹介されている〝大名おろし〟を採用する事にした。
大名おろしとは、大量の小魚を三枚おろしにするためのひとつの技法だ。
通常の三枚おろしに比べて手早く作業できるのが売りなのだが、デメリットとして、捨てる中骨の方に身が多く残ってしまう。
そんな贅沢なおろし方をするほど、ふところに余裕のある大名気取りなのか、という意味で〝大名おろし〟と呼ばれるのだという。
豆アジをおろし終わったら、次は、身に残った皮ごとゼイゴを剥ぎ取るのだが、これは包丁いらずの手作業にて可能なので、ミオにも手伝ってもらった。
皮を剥ぎ終わったら、今度は包丁で腹骨をすき取る作業にかかる。
豆アジなので腹骨も小さいのだが、だからといって残したまま食べると、食感が悪くなり、せっかくのリクエストである漬け丼がおいしくなくなってしまう。
なのでこの作業だけは、多少時間がかかる事を承知の上で丁寧にやった。
これらの細かい下処理が終わって、ようやく、豆アジをタレに漬け込むことができるようになる。
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