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11.二人の魚料理(2)

 俺とミオは、豆アジのエラ、胸ビレと内臓をひたすら手作業で取り出し、そのまま三角コーナーにポイする。  そして空っぽになった腹の中を水で洗い流し、俺が包丁で頭を切り落とせば、下処理は完了だ。  念のために、ゼイゴがチクチクしないか触って確かめてみたが、さすがに小ぶりなだけあって、全くと言っていい程トゲトゲしさが無かった。  これなら、特に処理せずにそのまま漬け込んでも、問題なく食べられるだろう。  いざとなったらお酢の力で柔らかくすればいい。  下処理が終わったら、今度は大きめのタッパーを用意して、豆アジを漬け込むための南蛮酢を作る。  この南蛮酢のレシピは実に多種多様なのだが、家にある調味料は穀物酢と醤油と味醂(みりん)、そして砂糖と塩。以上。  一応これだけでも南蛮酢は作れるそうなので、それぞれの調味料を大体の目分量でタッパーに流し込み、混ぜ合わせてみた。  どれ、ちょっと味見してみよう。 「んー……」 「どう? お兄ちゃん」 「少し酸っぱいような気がする」 「ね。ボクも舐めてみてもいい?」 「ああ、ぜひ頼むよ。ミオにもチェックして欲しいんだ」  俺はスプーンで南蛮酢をすくい、そっとミオの口に運んだ。 「……んちゅっ」 「どうかな。酸っぱくないかい?」 「うーん、ちょっとだけ酸っぱいかも」 「やっぱりかぁ。じゃあもう少し酢を薄めてみるか」  酸っぱかったり甘くしすぎたり塩辛くなったり、そうやって試行錯誤すること数回。  ようやく、二人が満足する味わいの南蛮酢が調合できた。  レシピによると、その南蛮酢の中に、まず玉ねぎや人参、ピーマンなどの野菜を薄く切って漬けておくらしい。  人参とピーマンは用意していなかったので、とりあえず、実家のお袋から大量に送られてきていた、玉ねぎだけを入れることにした。  主役である豆アジのスペースを圧迫しないよう、入れる玉ねぎは一個の半分だけにする。 「うあぁ、玉ねぎが目に染みるー!」 「お兄ちゃん、大丈夫?」  玉ねぎを切ると涙がボロボロ出る人がいるとは聞いていたけど、まさか自分がそういう体質だったとは。  ミオは心配そうな顔をしているようだが、その顔さえ涙でにじんで見えやしない。  お袋も料理する時はこんなに苦労していたのかなぁ、そう思うと頭が下がるな。  俺はミオに涙を拭ってもらいながら玉ねぎをスライスし、南蛮酢に漬け込んだ。  次の工程は……なになに、アジに片栗粉をまぶして揚げるだって?  なんてこった、油で揚げる必要があるのか!  まいったなぁ。油はあるけど、家には片栗粉どころか小麦粉すら無いぞ。  さっきの野菜といい片栗粉といい、自分の準備不足を指摘されているようで狼狽(ろうばい)してしまったが、ネットの世界は広大だ。  別のサイトで南蛮漬けのレシピをチェックしてみると、油だけで〝素揚げ〟をしてもOKだそうなので、そのやり方を実践した。  素揚げにて香ばしく揚がった豆アジは、骨やゼイゴも柔らかくなるのだという。あとは玉ねぎと一緒に南蛮酢に漬け、一時間ほど味を染み込ませれば、仕込みは完了だ。  材料の関係で作り方が途中で変わってしまったが、まぁ、おいしく食べられればそれでよしとしよう。  これこそが柚月(ゆづき)家流、豆アジの南蛮漬けなのだ、という事にしておく。

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