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11.二人の魚料理(1)
「さて……やるか」
俺は、午前中のうちに終えた魚釣りで、氷締めして持ち帰った大量の豆アジを、鮮度が落ちないうちに調理することにした。
実を言うと、俺は生まれてこの方、魚を捌いた事は一度もない。なので魚料理作って振る舞うのも、当然これが初めてになる。
ミオが一生懸命釣った豆アジをおいしく食べてもらうためにも、失敗だけは許されない。
俺はキッチンの傍らにスマートフォンを立て掛け、アジ料理のレシピが一覧で載っているサイトを開いた。
そのサイトでまず目に留まったのが、豆アジを南蛮漬けにする方法。
通常、アジには小骨やゼイゴと呼ばれるトゲ状の鱗 があるので、それを取り除いてから調理するのがセオリーらしい。
だが、今回釣ったのは豆アジだ。
およそ五十匹以上釣り上げた豆アジは、その数もさることながら、体長十センチにも満たない、小ぶりなものばかり。
それらの小骨やゼイゴを全部取り除く作業といったら、おそらく想像を絶する難易度になるだろう。
俺が一番心配なのは、その作業に手間をかけすぎて、アジの鮮度が落ちてしまう事。
ただし、南蛮漬けや唐揚げにすれば、ゼイゴや骨ごと食べられるというのだ。これはズボラな男の料理としてはうってつけではないか。
よし決めた、まずは南蛮漬けを作ろう。
「ねぇお兄ちゃん」
料理に取り掛かるべく腕まくりをしていると、リビングでテレビを見ていたミオが、トコトコとやってきた。
「ん、何だい?」
「今からお料理するんでしょ。ボクもお手伝いしてもいい?」
「ああ、もちろんだよ。ありがとな」
何ていい子なんだろう。ミオも目一杯遊んで疲れただろうに、料理の手伝いまで申し出てくれるなんて。
まるでこの子は天使か何かのようだ。
「こんなにアジがいっぱいだと、どっちがどれを釣ったのか分かんないね」
「ははは、そうだな」
「ね、何を作るの?」
「まずは、南蛮漬けにしようと思うんだ」
「ナンバンヅケ?」
「うん。お酢や醤油とかを混ぜ合わせて、その中にアジを野菜と一緒に漬け込む料理なんだけどね。アジの身が柔らかくなるまで時間が掛かるらしいから、そっちから先にやろうと思ってさ」
「なるほどー」
ミオが手を合わせて感心している。
「じゃあ最初に、アジの頭と内臓を全部取っちゃおうか」
「はーい。内臓はどうやって取ればいいの?」
「えーとな、豆アジの内臓は確か、包丁を使わなくても取れるそうなんだけど……」
スマートフォンに表示されている画像を参考に、豆アジの両エラに指を差し込み、尾っぽの方へぐいっと引っ張ってみる。
すると、さほど力を込めなくても、エラと内臓、そして胸ビレを丸ごと引っこ抜くことができた。
「おー。綺麗に取れるんだねー」
「そうだね、これなら誰にでもできそうだ」
「ボクもやってもいい?」
「うん、一緒にやろう」
こうしてミオとの共同作業が始まった。
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