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12.ミオの散髪(3)
「里香 ちゃーん」
「あっ、ミオちゃんだー」
二人はお互いを〝ちゃん付け〟で呼ぶ程の仲らしい。
この里香というツインテールの子も、ミオの事を女の子として接しているのかな。
「こんばんは。いつもミオがお世話になってます」
「こんばんは! ミオちゃんのお父さんですよね?」
「違うよ里香ちゃん。ボクのお兄ちゃんだよー」
「え、そうなんだ! すごく歳が離れてそうだから、お父さんだと思っちゃった」
「ははは……」
さすがに小学生は容赦ないな。
まぁ歳が離れているのは事実だけど、俺はこれでもまだ二十代なんだぞ。
「里香ちゃんどこ行ってたの?」
「塾だよー。今から帰るとこなの。ミオちゃんはどこかにお出かけ?」
「うん。お兄ちゃんと一緒に、床屋さんに髪切りに行くんだよ」
「あー、そういえば学校で言ってたねー。ミオちゃん、ほんとに短くしちゃうんだ?」
そう言いながら、里香さんがミオの後ろ髪を指でいじくった。
俺以外の人に髪を触られた事に、ちょっとだけジェラシーを感じたが、まぁ女の子同士なら、このくらいのコミュニケーションは普通に取るよな。
ミオは男の子だけど。
「そだよ。初めて行く床屋さんだから、お兄ちゃんに連れて行ってもらってるの」
「お兄さん優しいんだねー。あたしもそんなきょうだい欲しかったなぁ」
「うふふ、お兄ちゃんって優しいだけじゃなくて、お料理も上手なんだよ」
「え、そうなんだー」
「うん! この前もね……」
「ミ、ミオ。今日はもうその辺で……」
「えー? もう行かなきゃダメ?」
「ほら、こんな時間だし」
そう言って俺は左腕の袖をまくり、腕時計を見せた。
「里香さんの帰りが遅くなったら、親御さんも心配するから。な?」
「そっかぁ、んじゃ仕方ないね。里香ちゃん、また明日お話しようね」
「うん。じゃあねー! お兄さんもさようなら!」
「はい、さようなら。これからもミオの事よろしくね」
ミオと里香さんの別れ際。二人はお互いに、姿が見えなくなるまで手を振っていた。
ほんとはもう少しお話させてあげたかったんだが、さすがに俺がいる前で、俺の事を自慢され続けると照れくさくて、背中がむず痒かったのだ。
ただ、それはミオにとって、俺がいい里親であり続けているって事なのかも知れないし、そこは素直に嬉しかった。
「ミオ、あの子と仲がいいんだね」
「うん。里香ちゃんは、学校で一番初めに話しかけてきてくれた子なの」
「へぇ、そうなのか。ガールフレンドができるっていいよなぁ」
俺はしみじみとつぶやいた。
「お兄ちゃんが小学生の時は、女の子にお友達いなかったの?」
「そうだよ。小学生どころか、高校生までずっといなかったな。何しろモテなかったからね」
「じゃあ、今は?」
「今もほとんどいないよ。大人になって仕事しだしたら、友達を作る暇が無くなってくるからね」
「ふーん、大人って大変なんだね」
ミオはそう言うと、また両手で俺の腕を抱いた。
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